金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
里見先生は、手を組んで、ふふふ、と笑う。
「…青春ね。」
…そうか。
…私がこうやって悩んで苦しんでも、それらはたったその一言でまとめられてしまうようなことなのか。
ショックだったとかじゃなくて、そう気付いたことが妙に私を落ち着かせた。
そんな大したことじゃないのか…みたいな。
里見先生は言った。
「…そうね、私が思うことは少なからずあるけれど、やっぱりこれは琴子ちゃんが乗り越えなくちゃいけないことだから、あんまり口を出さない方がいいのかもね。
漠然としたアドバイスだけ、話すことにしようかな。」
…反射的に、なんて無責任な、と思った。
里見先生が、私に話さないかって言ってきたのに。
里見先生は私の咎めるような視線に気付いたのか、少し微笑んで、理由を話す。
「…なんでかって…このことを乗り越える力を、琴子ちゃんは持ってると思うからなの。
そして、私個人の閉塞的な考えに縛られて、琴子ちゃんの可能性を狭めてほしくないから。」
分かるでしょ?というように里見先生は私の顔を覗き込む。
…里見先生は、私のために言ってくれているんだ。
分かって、私は頷いた。
里見先生はまた少し微笑んだ。
そして、目線を上に、少し遠くの方へ向ける。
私もつられて、里見先生が見ている方を見た。
「…私達は生きていく上で沢山の壁にぶつかる。」
里見先生はどこか確信に満ちた口調で話し始めた。
「…自分を否定されることもある。分かり合えないと思うことだって、沢山あると思う。
それでも、前に進んでいかなくちゃいけない。」
私だってまだまだ未熟者だけどね、と里見先生は目を細める。
私は静かに続けられる言葉を待った。
「進んで、また戻って、また少し進んで。
…ちょっとずつ、本当にちょっとずつだけど、そうやって進んでるんじゃないのかな。
一回こうなんだって分かっても、すぐにまた分からなかった頃に戻って、また、そうだったよねって、再確認して。何度も何度も。
皆、そうなんじゃないのかな。」
…ほつれていく。
私の歪んだ気持ちがほつれていって、里見先生が言う一つ一つの言葉が、その隙間に入り込んでくる。
りっちゃんの顔が、脳裏に浮かんだ。
「傍から見ればきっと微々たるもので、もっとこうすれば、ああすればって、色々あるんだと思うわ。
だから、周りの人は色々言ってくる。
私も琴子ちゃんに色々言うよ。
そのお友達だって色々言うよね、琴子ちゃんに。
琴子ちゃんも言うでしょう?その子に。」
里見先生は目だけを、私に向けた。
「…完璧な人なんて誰もいない、だから、お互いに言い合うしかないんじゃないのかな?」