金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
図書室の、防弾の二重ガラスのドアを、勢いそのまま開け放つ。
金曜日以外に司書をしているおばあさん先生が、ビックリして読みかけの本から顔を上げた。
私は構わず、走ることは出来なくても最大限の早歩きでそのまま第2学習室へ向かった。
利用表に名前を書いてないけど、今はいい。
勉強をしに来たわけじゃないから。
そのまま進んでいき、第2学習室の木目のドアの前で立ち止まる。
呼吸を整えた。
心臓が飛び出しそうなくらい、跳ねてる。
「…ふぅ……。」
ドアノブに置いた手を、徐々に、押し出していく…。
ゆっくりと、顔をあげた。
…そこには、いつも通り座っている須藤くん
を、期待した、のに
目の前で、何かがガラガラと音を立てて崩れた。
…その部屋には、誰も、いなかった。
一瞬、本当に須藤くんがいつものように席に座っているように見えた。
けれど、綺麗に片付けられた机と戻された椅子が、ただ私に反応することなくそこにあるだけだった。
幻覚?
まさか、本当に帰ってるとは思っていなかった、ということなのか。
おそらく、そうだ。
…私は…甘えていたんだ。
フッと、体から力が抜けた。
いつも座っている席へ歩みを進める。
…こんな時間に帰る須藤くんなんて、あの雨の日しか知らない。
…今日、予定があったのかな。
椅子を引いて、ストン、と腰を下ろす。
…今日に限って、予定があったのか。
私は口元だけで笑った。
笑うしかなかった。
だって、こんなにも上手くいかない。
今でも右斜め前を盗み見れば、英文を読んでうつらうつらしてる須藤くんが見える気がするのに。
…会いたい。
…こんなにも会いたいのに、会えない。
…こういう時に限って、会えない。
胸に鉛が溜まっていく。
どうして
なんで
言い出したらキリがない。
手を握りしめた。
そうでもしないと、溢れてしまう気がした。
…分からないよ。
怖いよ。
私の一方通行は、怖い。
何でもいい
何でもいいから
お願い
…須藤くん
「…何か言って…。」
無理な注文だと分かっていても、心の声は漏れて、一人ぼっちの部屋に虚しく響いた。
二人ぼっちはあんなに幸せなのに、一人ぼっちになると急に、こんな。
私はまた、笑った。
返事なんて、あるわけ無い。
当たり前だけど…。