金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
窓から照らす光は、そろそろいつもなら二人が帰る時間のあの黄昏時。
なんてことは無く、その光を目でなぞった。
カーペットのその部分だけ、はちみつでもかかったように照り輝いている。
なんて事は無しに、左側を見た。
移動式の小さな黒板。
白いチョークも照ってるなぁ、なんて思って、
それを、見つけた。
目が、見開かれる。
"来週返します"
それは
何度も何度も何度も
あの
右肩上がりの
「………ッ!」
私は立ち上がった。
黒板に向かう。
目に焼き付けるようにそれを見る。
我慢の糸が切れた。
咄嗟に両手で口を覆った。
でも、それでも指の隙間から漏れていく。
堪えてもほとんど意味が無いくらい、涙は次から次から溢れ出る。
「…蛍光ペンなんて…」
震える。
声も心も体も
「……すっかり忘れてたよっ……。」
須藤くんからのメッセージが、滲んだ。
足から力が抜けて、地面にへたり込む。
嬉しくて、まさか、須藤くんが来なかった私に何かメッセージを残してくれていたことが、嬉しくて。
例えただの連絡だったとしても。
嬉しくて、余計に、会いたくなって。
目頭が熱い。
ここでは泣きたくなかった。
のに、もう無理だった。
…だって、須藤くんなら、いてくれる気がした。
…受け止めてくれる気がしてたの。
止まらない止まらない
自分のために世界が動いているわけじゃないのに、私はまだどうしても自分を中心に見てしまう。
私は手の甲で涙を拭う。
…分かったこと。
須藤くんが誰を好きでも、私は須藤くんが好きだ。
これは、恐怖にも勝つ確かな気持ち。
だけど…羨ましい。
頬があっという間に濡れていく。
須藤くんは好きな人に会いに行ったんじゃないか、とか。
考えてしまう。
須藤くんに好かれている、誰かが羨ましい。
心底羨ましい。
…そして、憎い。
あぁなんて私は嫌な奴なんだ。
嫉妬だ。
私にはそんな権利ないのに。
どうしようもない嫉妬が私を支配する。
…誰?
須藤くんはどんな子を好きって思うの?
どこを好きになったの?
その子じゃなきゃだめなの?
私がどうなれば、好きって思ってくれるの?
終わらない。
狂いそうな嫉妬が私を醜くする。
…でも
…今は、ただ、会いたいだけなのに。