金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
わいわいがやがやと集まって固まり出す人の間を通り抜けて、私はりっちゃんの席へ向かった。
りっちゃんの背中がなんだか小さく見えて、動悸が早まる。
これから言うことを、もう一度脳内で確認する。
取り繕ってもダメなんだと分かっているなら…私のありのままの言葉を伝えよう、と。
手を伸ばせば届きそうな距離まで来て、私はごくりと喉を鳴らした。
「りっちゃん。」
なるべく、なるべくいつも通りを心掛けたけれど、残念ながらというかやはりというか、上ずった声が出た。
りっちゃんが微かに、顔を上げる。
でも、私の位置からその表情を窺い知る事は出来ない。
目が泳いだ。
動揺が、空気を震わす気さえした。
「…金曜日は、ごめん。」
騒音の中にあってなお、私の言葉だけがぽこんと存在感を確かにする。
私は、躊躇いがちに続けた。
「私の完全な八つ当たり、だったと思います。…なのに、なかなか素直になれなくて、ごめんなさい。」
緊張が、語音に揺れる。
りっちゃんの下ろした長い髪が、一房肩から流れ落ちた。
心臓が繰り返し、私の胸を内側から小突く。
やがて、りっちゃんがゆっくりと振り返った…
「…もう、遅いよ。」
真面目な顔で、りっちゃんは言った。
えっ…。
頭が真っ白になる。
でも、次の瞬間、りっちゃん下を向いて、フッと笑った。
「…嘘。私もごめん。
琴子のこと分かってなかったし、厚かましいし、恩着せがましいし…そりゃ嫌になるよね、て反省しました。」
りっちゃんが、ごめんなさい、と頭を下げる。
「…いや、そんな…!」
私はりっちゃんに顔をあげるよう促した。
今回のことは、どう考えても私が突っかかったことが原因だ。
りっちゃんは、顔をあげて私を見ると、目を細めて笑った。
私も釣られて笑顔になる。
「…食べよ食べよっ!」
りっちゃんは、机の上から自分のお弁当を取って明るく言った。
「ほら琴子も早く。」
言いながら私の背中を押す。
私は、わわわ、なんて言いながら、歩き始める。
…りっちゃんは、お弁当食べないで待ってた。
…私が謝りに来ることを信じて、ずっと待ってた。
朝からずっと、私がいつでもりっちゃんに声をかけられるように、気を使っていたのかな、とか。
考え過ぎかもしれない。
だけど、もしそうだったら、確かに私は『遅かった』だろう。
…そういう意味で、言ってたのかな。
分からないけど、とりあえず。
…りっちゃん、好きだなぁ。
そう思って、頬が緩んでしまったのは、ここだけの秘密。