金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
りっちゃんはいつものように席を私の所へ持ってきて腰かけた。
私も自分のお弁当を取り出す。
りっちゃんが、フタを開けながら言った。
「で、金曜日どうだった?」
手が、止まった。
私のペンケースの中に、今もまだ肩身を狭くして居座っている水色の蛍光ペンを思い起こす。
何かが染みた。
「…行ったよ図書室。」
りっちゃんの顔が、パッと明るくなりかけたところで、私は続きを言った。
「…でも、会えなかったんだ。」
りっちゃんが止まった。
箸を持つ手が宙で固定される。
「…え?」
手を、握りしめた。
「…もう、帰っちゃってたみたい。」
私は笑った。
というか、笑おうと努めた。
でも、引きつって、傷ついてるのが丸わかりな、でもそれに気付かれないようにしたのにそれすらバレバレな、悲惨な笑顔になったことを自覚した。
そうなることは、心から笑えるはずないってことは、分かってた。
それでも笑ったのは、プライドか、自分自身への誤魔化しか、りっちゃんへの遠慮か。
理由はハッキリしなくて、でも、笑わずにはいられなかった。
りっちゃんは、何も言わずにただ私をしばらく見た。
金曜日のあの後私が行ったということに、私がどれだけの想いを抱えていたかを、りっちゃんは分かってくれている。だから、
りっちゃんは、ただ一回頷いた。
私がそれにどれほど救われたかしれない。
変に慰められるより、同情されるより、よっぽど私のことを考えてくれてるって分かったから。
りっちゃんはまたお弁当を食べ始めた。
私もやっと自分のお弁当を開ける。
りっちゃんが、口を開いた。
「私もね、金曜日琴子の気持ちがすっごく分かったんだ。」
今度は私が、手を止めてりっちゃんの顔を見あげた。
りっちゃんは薄く笑っていた。
「あの後、呼び出された場所に行ったらね、アイツだけじゃなくて、後輩もいたの。それも、一個下の可愛めの…多分、アイツのことが好きな後輩。」
私は思わず目線を落とした。
そんなのって…りっちゃんの気持ちを考えると、無性に息苦しくなった。
「私、その時かなり緊張してそこに行ったの。」
当たり前だ、と私は頷く。
「だから、遠目から二人がなんか楽しそうに笑いあってる様子見て、なんか、力が抜けてきちゃって。」
…突然脳裏に、あの梅田さんの言葉が蘇った。
『須藤くん、ずっと前から好きな子がいるんだって。』
胸の奥が苦しくなって、りっちゃんのそれと、確かにリンクするのが分かる。
りっちゃんが、私を見て笑った。
「…私がどんなに頑張ったって、あっちがもう私以外の人を見てるなら、もう意味無いんじゃないかって。」
頑張る私は、なんて惨めで滑稽なのかって。
…りっちゃんが、傷ついてるのが丸わかりな笑顔をするから、なんだか泣きそうになった。