金曜日の恋奏曲(ラプソディ)



あわわわわわ……




私はどうしたらいいか分からずに、ただ涙を流していた。




「……ごごごめん、涙、と止まんなくて。」




気にして、言ってみた。




須藤くんの腕は私をきつく抱きしめていて、それでも、息苦しくないように加減されているのが分かる。




「……うん。」




……うん??




謎の肯定に、私は更に、あわわわわ、となる。




……な、泣くなってことかな!?




よし、と歯を食いしばった。




すると、須藤くんが私の耳元で、長い息を吐いた。





ふーーーーーっ





……そ、それ、ゾワゾワするからちょっと……!!




私のそんな気持ちなんていざ知らず、須藤くんはあの声で、私の耳に囁く。








「……………すげぇ、嬉しい。」








…須藤くんの声音は、本当に、ほとばしる喜びを抑えてるみたいで。




私のドキドキが止まらなくなってしまう。





「…なんか、信じられない…。」





須藤くんは言った。




…本当にその通りだ。






「……わ、私も…。」






そっと、須藤くんの背中に手を回した。




私は目を瞑った。




須藤くんの、匂いがする。




洗剤と、ワックスと、あと……。





……分からない。ただ、幸せな匂い。




ボソッと、呟いた。







「「夢みたい。」」







…ピッタリ、ズレることなく重なった。




須藤くんが笑った。




私も笑う。




顔が高揚して、胸が苦しくて、でも全然嫌じゃなくてむしろ、心地よくて。




須藤くんも、同じ気持ちだという、またあの根拠の無い自信が湧いた。




空白の時間が広がり始めた。




…何か、言わなくちゃいけない気がした。




「あ、あれだね!…須藤くんと里見先生、親戚だから、に、似てたんだね。私全然分かんなかったからっ…。」




あはは、と私の笑い声が響く。





「…ねぇ。」





須藤くんの呼びかけに、ビクッとした。






「...俺と居るんだから、俺のことだけ考えてて。」






ドキッとして、喉になんか詰まったみたいな音が鳴った。




須藤くんが、ハッとしたように顔を動かす。





「キモいよね。ごめん。分かってる。
…けど、めちゃくちゃ好きなんだ。」





わわわわわわわ……




謝罪に見せかけた連続右ストレートですよ…。




突然、須藤くんの顔が見たくなった。




須藤くんの顔を見るということは、私も見られるということだけど、もうあれだけ泣いたんだ。今更だ。




泣き顔を見られた女は、強い。




「……須藤くん。」




「……なに?」




須藤くんの声は、すごく優しい。




「……あ、あの」




そんなに優しいと、なんか罪悪感に襲われる。




…えーい言っちゃえ!






「……須藤くんの、顔がみた「だめ。」






…言い終わる前に断られて、私は撃沈した。




どこかで、優しい須藤くんならなんでも聞いてくれる気がしていた。




「…な、なんで?」




私は聞いた。




須藤くんは、少し黙ってから言った。





「…俺、多分今すげー顔赤いから。恥ずかしいから、だめ。」




「…そ、そんなの、私だって。」




そんなの、お互い様だよ。




そう思ったら




「…長谷川さんはいつもじゃん。」




「ひどい!」




須藤くんは、私が気にしていることをサラリと言った。

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