金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
2人だけの自習室に、2人だけの書く音が響く。
今までと同じ、いつもの音。
私の緊張を煽って、同時に心地よくて安心する音。
でも、今までと少し違うのは、それが耳に流れている間、心臓がすごい勢いで飛び跳ねているということ。
今までもずっとドキドキしていたけれど、それは緊張と恥ずかしさから来るもので、けど今日は少し違う…。
須藤くんの書くリズムさえ、その1音1音さえ、愛しくて、大切にしたくなる。
私の心に、メロディがすうって染み込んできて、どうしようもなく切なくなる。
切なくて苦しくてドキドキして、心がもたないから嫌っていう気持ちと、でも、ここにいるのは心地が良くて安心できて、嫌な気持ちも全部嫌じゃない…ていう相反する矛盾した気持ちとが、ゆっくり近づいて、重なって、それから次第に溶け合っていく。
そして、全部が、一つの気持ちに結びつくの。
どうして気付かなかったんだろう。
今までもずっと、心はこんなにも叫んでいたのに。
…ううん、違う。本当は気づいてた。
けど、その気持ちはもろくて、壊れやすくて、大切にしても簡単に無くなってしまいそうで、それが怖かったんだ。
だから、そんなもの最初から無いようなフリをした。
でもね、もう、叫んでいるのは心だけじゃなくて、見えないフリをするのも限界だって。
…あぁ私、須藤くんのことが好きだ。