金曜日の恋奏曲(ラプソディ)



一日中、どんよりとした空模様だった。


湿度の高い空気をもうこれ以上含みきれないと、今にも水滴にして落としてきそうな雲だった。



私が金曜日を待ちに待っている間にカレンダーは1枚めくられ、梅雨入り宣言が出されていた。



「今日、夜豪雨になるんだってね。
琴子、私を待たないで先に帰っててもいいよ?」



りっちゃんが心配そうに私をのぞき込む。



帰りのHR後の、廊下でのこと。



いつもなら「いつもの所で待ってるね」って言って見送るのに、今日はそんなにすんなりと行かず引き止められた。



私は慌てて両手を前で振る。



「ううん、私何にも予定ないから急いで無いし、りっちゃんのこと待ってるよ。」



「そー?でも私が部活終わる時間はもう結構ザーザーだってよ?」



「大丈夫だよ。それに、りっちゃん傘忘れたって言ってなかった?
私学校に置き傘あるからそれ貸そうかなって思ってたし、傘2本持っていつものところにいるよ。」



そう言ったら、りっちゃんは嬉しそうに笑って



「琴子相変わらず優しいね。じゃあ、お言葉に甘えて。」



と言った。



…胸が、傷んだ。



でも、それが顔に出ないように、ぎこちない笑みを浮かべる。



「あ、でも、また部活遅くなって雨の中外で待たせるのも悪いし、そんなに早くにいなくていいからね。」



と、りっちゃんが釘を刺す。



先週、急いだはずなのにまた私の方が早く来ていたことを相当気にしているらしい。



私が頷くと、りっちゃんも満足げに頷いて、手を振って去っていった。



小さくなっていくりっちゃんに、私は手を振るのを止め、その背中を見つめた。



ごめんねりっちゃん…。



りっちゃんを待ちたいのは本当だけど、私が今日りっちゃんを待ってたい本当の理由は違うの…。



優しくなんかないんだよ。



自己中心的で、わがままなんだよ。



だって、やっぱりまだその理由は言いたくない自分がいるんだから。




ごめんね…。




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