金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
利用表にはいつもの字。
私もいつも通り、に見えるように、次の欄に丁寧に名前を書く。
いくら小さく書いて誤魔化しても、字が綺麗じゃないってことはバレちゃってるはず…。
それでも、少しでも良く思われたいの。
……好きな人には。
自分で考えておきながら、かあっと顔が赤くなった。
恋心は、変なひねくれが無くてまっすぐで、感じる気持ちを全て肯定するから厄介だ。
ただでさえ恥ずかしいとすぐ赤くなるのに、恋心がより一層拍車をかけてくる。
今だって、会う前から頬は赤く染まってて、口はカラカラで、心臓はうるさく飛び跳ねている。
それもこれも、全部終着点は『好きだから』。
人を好きになるって凄いことだなあ…って思う。
私はボールペンをそっと置いた。
一歩一歩踏みしめるこの時は、私にとって1番緊張するのと同時に、1番好きな時でもある。
本棚の間をすり抜けて、私はあなたに会いに行く。
紺地に金色で刻まれた『子猫のジャネット』の背表紙や、年季を感じさせる深い色味の本棚の落書きを、通り過ぎ様になんとなく、撫でてみたり、する。
金曜日のこの時間に詰め込まれた、この瞬間にしか存在しえないこの雰囲気が、私は大好きだ。
でも、これらだけだと特別な金曜日は完成しないから。
最後の1つを求めて、私の足は第2学習室の前で立ち止まった。