金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
私はちょっと恥ずかしくて、抑え目に口を開いた。
「あの、今日はこないだオススメしてもらって借りてみた作者さんの違う本が読みたくて。」
私が下を向いてボソボソ喋らないのも里見先生とりっちゃんくらいだ。
すると里見先生はパッと顔を輝かせた。
「やっぱり面白かったでしょ!?絶対琴子ちゃんが好きなタイプだと思ったんだー。」
楽しそうな笑顔は本当に素敵で…。
派手な美人さんとかじゃないんだけど凄い綺麗なんだよなぁ…っていつも思う。
「なんと、そう言ってもらえることを期待して何冊か家から持ってきちゃった。ふふふ。良かったー。」
そう言ってゴソゴソと、どこかのブランド名が入ったシンプルだけどおしゃれなトートバッグを漁って、何冊かの文庫本を取り出した。
「ここの図書室のじゃないから司書として本当は良くないんだけどね。折角琴子ちゃんのために持ってきたから。」
里見先生は私に、はい、と本を渡した。
「ありがとうございます…読んでみます!」
それから先週借りた本の返却手続きをしたら、里見先生が聞いてきた。
「あ、今日も6時までやってくでしょう?いつもの通り、書いておいてね」
里見先生が指さしたのは、自習室として開放されている第2学習室の、入退室者名と学年を書く利用表。
思わず探した私に、里見先生がイタズラっぽく囁いた。
「大丈夫、来てるわよ。」
…その台詞で一気に、一気に顔に熱が集まったのが分かった。
「そ、そんなんじゃ無いです…!」
「そうよね、ただなんとなく気になっちゃってるだけだもんね」
焦る私を見てクスクスと笑う里美先生。
「だからっ…!」
否定しようとすればするほど顔は熱くなってくる。
「ごめんごめん、可愛くってついからかっちゃった。
でも大丈夫よ、隠れて見てたりしないから、ゆっくり今日も自習していってね。」
里見先生はまだ笑いながらそう言うと、もうしばらく人が来ないことを知ってるからか「じゃあまた後で」と言ってカウンターの奥の司書の部屋に入っていった。