金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
瞬間、私と須藤くんはパッと相手の顔を見た。
まさか、相手も同じタイミングで話しかけてくるなんて、考えもしなかったとお互いに驚きながら。
「…あ、ど、どうぞ。」
私が慌てて言うと
「あ、ううん。...長谷川さんから先に喋って。」
と須藤くんが言う。
須藤くんの、二回目の『長谷川さん』に、心臓がドキッと跳ねる。
それから
「あ、えと…」
と口を開いて、何も話すことを決めていなかった自分に気が付いた。
えっと…えっと…
「…あっ、今日、これから凄い雨降って来るんだって、ね。」
私は、窓の外を眺めて思い出したことを咄嗟に放った。
言ってすぐに、後悔の念が襲ってくる。
…私、いくらなんでも天気って…もっとマシな話題いくらでもあったでしょ…。
須藤くんは窓の外をちらっと見て言った。
「…あ、うん。」
...決して、素っ気なく言われたわけでは無かった。
でも...。
ドクンドクンといつも以上に響く鼓動に、胸の痛みが相まって。
もちろん違う意味で、頬に熱が集まってくる。
…せっかく、せっかく須藤くんの話すのを遮ってまで話したのに…絶対今つまらない子だと思われたよ…。
...ていうか、この話題じゃこう言うしかないの当然だし、これで会話終了に決まってるし。
私は俯いて下唇を噛んだ。
...でも、須藤くんは、付け加えた。
「…だから今日湿気が凄すぎて、いつも以上に髪がボサボサなんだよね。」
そう言って、照れ隠しで笑いながら、左手で髪の毛をわしゃわしゃとかき混ぜる。
…胸が、きゅん、となった。
安堵と共に、自然と口元に笑みが広がってくる。
呆れられたわけじゃなかったという嬉しさと、あんなネタから会話を続けてくれた須藤くんの優しさとが、あっという間にしぼんでいた心を満たしていく。
自分の髪のくせっ毛を気にしている須藤くんは、とてもかわいくて。
本当に、須藤くんの行動のいちいちが、私の心を一喜一憂させるの。
ある時はこれまでにないってくらい胸を高鳴らせて、次の瞬間突き落とされて、また次の瞬間信じられないほどに浮かれあがる。
恋心は、なんてゲンキンなんだろう。
多分、どんなに傷つけられても、笑顔で名を呼ばれれば、どうでも良くなってしまう気がする...。
私の笑みに須藤くんも笑い返して、そこで何となく会話が終わりになった。