金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
須藤くんは、私の懇親の誘いに、純粋に驚いたようだった。
そりゃそうだ。
向こうからすれば、私なんて...まだ、毎週金曜日に同じ自習室で勉強してる人に過ぎないだろう。
今日ほぼ初めて少し長く会話したくらいで一緒に帰ろうなんて言ってきたら、驚くのは当然だ。
私は、口を開くとすぐにでも訂正の言葉がついで出てきてしまいそうで、黙っていた。
恐る恐る須藤くんを見つめていると、須藤くんの顔に明らかな躊躇の色が浮かんで。
...躊躇っているのは、私と『友達』への遠慮の為なのか、それともただ単に、私と帰ることが嫌だということなのか...。
出来れば後者ではあって欲しくないと願う自分が、どうしようもなく嫌になる。
りっちゃんより自分を優先しておいて、これ以上何を望んでいるのか...って。
口を、ますます真一文字にぎゅっと結んだ。
須藤くんが私を伺うように聞いた。
「...それは...えっと、いいの?」
今度は私が少し尻ごんだ。
...いいのってことは、須藤くん自身はウェルカムってこと...?
「...わ、私は大丈夫だよ。」
そう言うと、須藤くんが「あ...う、うん」と歯切れ悪く相槌を打つ。
心臓が、ヒヤリとした。
須藤くんは、遠慮がちに、私の顔を覗き込んだ。
「...じゃあ...そうさせてもらおう、かな」
「...!」
ゴクリと生唾を飲み込む。
私は嬉しさを堪えきれない様子で頷いた。
須藤くんも頬を緩めて、そこで
「...あ、でも...」
と思いついたように言う。
「もう降ってきちゃったし急ぐ意味もなくなっちゃったから...俺、長谷川さんとその友達の人待とうか?」
「…...あ、う、ううんっ...いいの!」
即座に否定してから、ハッとした。
反射的に飛び出した私の声は、かなり大きいものとして部屋に響いていた。
須藤くんが、ビックリして私を見てる。
「…あ、ごめん。」
焦って、目線を落とした。
ドクン、ドクンと心臓が鈍い音をたてる。
「…でも、大丈夫だから...。」
消え入りそうな声でそう告げると
「...ん、分かった。」
と、小さく返事が返ってきた。
心臓がいつまでも、鳴り止まない。
須藤くんへのドキドキじゃなくて...。
小さく震える息を、飲み込んだ。
…...私、私、今.…..。