金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「...駅?」
校門を出たところで、そう聞かれた。
私は、ハッとした。
そうだ、私達が同じ方向とは限らない。
もしかしたら、須藤くんは私と反対方向かもしれないのに...。
「わ、私は駅だよ。」
須藤くんは...?と、伺って少し目線をあげる。
「...ん。じゃあ大丈夫だ。」
須藤くんは軽く頷いて左の道を進んだ。
...駅への道だ。
私は、ホッと、安堵の息を漏らす。
駅までは、10分くらい。
住宅街を、ただまっすぐ進む。
近所の小学生らしき子供たちが、はしゃぎながら向かいの道を駆けていった。
車が、水しぶきを飛ばして角を曲がってくる。
不規則なリズムを刻む雨音はやっぱり耳に心地よくて、小さな傘の世界に、私と須藤くんは2人きり。
私はこっそり、学習室でやるように髪をカーテンみたいにしてバレないように須藤くんを盗み見た。
...須藤くんて、太ってるとかガタイがいいというわけではないのに、むしろ男の子にしては線が細めな感じなのに、女の子みたいな華奢さが全然無くて、どことなく引き締まった感じがする。
...運動部系の部活に入ってるのかな...。
...でも、金曜日が部活日じゃないってあんまり無いと思うんだけどな.....。
...肩幅は結構広いし、胸板もアツい感じだし...。
そこまできて、ハッとした。
私何考えてるんだろう!?と一気に恥ずかしさがこみ上げてきて、ぱたぱたと顔を仰ぐ。
チリリン
「わっ...」
ベルの音と共に、後ろから来た自転車が私の横を抜けて行った。
不意を付かれて、驚いて避けて、私の肩がトン、と須藤くんにぶつかった。
「「...あ、ごめ、」」
声が重なった。
目線が合った。
お互いに、逸らさなかった。
須藤くんの淡い茶色の瞳の中に、自分を見た。
数秒間そのままで、やがて、ゆっくりと私達はまた目線を戻す...。
スクールバックを持つ手に、力が入る。
「...あの」
気付いたら、声を出していた。