金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「長谷川さーん、5組の梅田さんが呼んでるよー。」
クラスの人がそう私を呼んだのは、月曜日の昼休みの事だった。
聞き覚えのない名字に、私は首をかしげた。
同感だったようで、私の前の席の椅子をこちら側に向けようとしていたりっちゃんも私を見て不思議そうに訪ねる。
「琴子、梅田さんと知り合い?」
「...ううん...というかどなたなのかも存じ上げない...。」
とりあえず行ってくる、と言い残して、私は教室のドアへ向かった。
そこで待っていた人を見て、私の疑問はますます深まった。
綺麗に巻かれた髪と、校則に触れまくりの派手めなメイク、第三ボタンまで開けた胸元に、短いスカート...。
所謂『上のグループ』の前線で騒いでいる感じの、学年的にも目立つタイプの人だ。
明らかに私とは住んでいる所が違うこの方が、一体何の用なのか検討もつかないまま私は声をかける。
「...あの...?長谷川ですけど...。」
梅田さんは、きつくウェーブのかかった長い髪を手で弄るのを止めて、こちらを向いた。
迫力のある、キツい目。
腕を組んで、ジロジロと私の体の下から上に目線を流し、品定めするように見る。
...わ...なんか嫌な感じ...。
私が思わず眉をひそめると、必要以上に大きい声で梅田さんは言った。
「あたし、長谷川さんにちょっと話があんだけど来てくれない??」
「...えっ、あ、」
私が抵抗するよりも早く、梅田さんは私の腕をむんずと掴むともの凄い力で引っ張った。
つんのめりそうになって、慌てて持ちこたえたらそのまま、成す術も無く引きずられて行く。
そのまま廊下をずんずん進んで、突き当たった階段脇のスペースに、二人の女子が立っていた。
梅田さん程ではないけど同じような雰囲気のその二人は、口に手を当ててお互いに何かを囁き合いながら、近づいてくる私と梅田さんを見てる。
どこかで見覚えがある気がする...。
私が記憶を探っていると、梅田さんはその二人の前まで来て私の手をパッと離した。
今まで重心をかけていた方向から急に開放され、私は軽く前によろけてしまう。
梅田さんは、ぐりんっと私の方を振り返って言った。
「この子らがさぁ、こないだの金曜日悠太くんとあんたが一緒に帰ってるのを見たっていうんだけど!」
私は一度、瞬きをした。
...思い出した。
...この子たち、金曜日に校門の近くで会った須藤くんのクラスメイトだ。
そして、梅田さんの言っている人が須藤くんであることを分かった瞬間、自分が今置かれている状況をやっと理解する。
須藤くんの下の名前を呼ばれていることに、今更ながら胸が痛い。
...この梅田さんて人、須藤くんの事が好きなんだ...。
...てことはこれって、恋愛モノによくある『あんた○○くんの何なの!?』みたいなやつ...?
私は、呼び出しなんて、やる人が実際いるんだと、驚きながら梅田さんの顔を見る。
梅田さんは、あの目で私を睨みつけながら詰め寄ってきた。
「ねぇ本当なの?悠太くん、何でもない女子と一緒に帰ったりするようなタイプじゃないよね?放課後どっかに行っちゃったと思ったら何それ!あんたみたいなやつに会いに行ってたなんて、フツーに信じられないんですけど!どーゆーことなの!?」
私が返事をする暇もないくらいまくし立てた梅田さんは、こう締めくくった。
「あんた悠太くんの何なのよ!!!」