金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「何でもない二人が一緒に帰ったっていうわけ?抱き合ったりするってわけ!?」
梅田さんの言葉に、二人組の片割れが、弾かれたように顔を上げた。
「...ちょ、ちょっと!かもしれない、って言ったんじゃん!見間違いだと思うけどって!」
梅田さんがその人をチラリと一瞥してから、私に目線で聞いてくる。
私は急いで否定した。
「だ、抱き合ってなんか無いです!そんな仲じゃ無いです!ただ」
と、そこからを梅田さんが引き継いで言う。
「ただ、何でもない二人が、一緒に帰ったっていうだけなんだ?」
梅田さんの咎める様な口調に、私はまた小さな声で返事をした。
「...何でもない、て言うと...。私が須藤くんを好きなのは事実ですけど...。」
震える声を、なんとか口にする。
「...あの日だけ、たまたま一緒に帰っただけです。」
...嘘は、ついてない。
...でも、梅田さんに図書室の事は、あの二人の時間のことは、言いたくないって思ってしまった...。
梅田さんは、私をしばらく見つめた。
私も、目線を逸らさなかった。
逸らした方が負け、なんて、私はそんな体育会系のタイプでも無いけど...この時ばかりは逸らしたらダメな気がした...。
と、そこで、二人のうちの一人が、私の後ろを見てもう一人に何やら囁いた。
囁かれたもう一人が、梅田さんのカーディガンを引っ張る。
「...ねぇ。」「ほら。」
それに気付いた梅田さんは、不満そうに鼻を鳴らして、目だけで二人の方を見た。
「...分かってる。」
梅田さんは、脅すように、私に言った。
「...とにかく、悠太くんは私が狙ってるんだから、邪魔しないでよね。」
...それは、私と、私の後ろの誰かに向かって言っているようで。
梅田さんと、その後ろを引っ付いて追いかける様に二人は去っていた。
私は、後ろを振り向けなかった。
誰なのか、私には十分過ぎるほどに分かっていた。
それでも振り向けないのは、私の最後の甘えでもあるとも、分かっていた。
......逃げるのは、もう終わりだ。
唇を噛み締めて、心の中で、そう呟いた。
自分を奮い立たせて、私は、ゆっくりと、振り向く。
...りっちゃんが、困ったような笑いを浮かべて立っていた。
「...あ、ごめんね、琴子。」
そう言って、頭をかく。
「なんか私心配になって着いてきちゃっ...聞くつもりなんて、無かった...んだけど...。」
...笑顔を残したまま、泣きそうに、ぐしゃっとりっちゃんの顔が歪んだ。
「.....ねぇ琴子、好きな人って.....?...金曜日...?
...何のこと...?」
...あぁ、私は、りっちゃんのこの顔が、見たくなかったっていうのに。
『ごめん』
そんな謝罪の言葉さえ軽いもののように、私の心の内に散ってなくなる。
私が泣くなんてお門違いだ、と、自分に言い聞かせて、私はりっちゃんの手を取った。
そのまま、階段の踊り場の、壁の少し出っ張っていて座れる部分に移動して、りっちゃんの隣に座る。
…私は、自分自身の気持ちから、もう逃げないんだ。
そう決意をして、私は、ゆっくりと話し始めた。