金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「...超今更だけど、私月曜日すっごいクサイこと言ったよね。」
りっちゃんは、照れと面白さが半分ずつみたいに笑う。
でも、そんなことを言ってしまえば私の行動だって結構なもので、後から振り返ったら相当、恥ずかしくなった。
「いや...もうそれは私もかなりのものだよ...。」
私もあまり胸を張って言えることではなくて、小さくなって言った。
「うん、もうあの雰囲気のあのノリでしか言えないね、アレは。」
りっちゃんも同感だと頷く。
りっちゃんの長くて綺麗な指が、私の髪の毛の間をするすると通り抜けていく。
「...でも私、後悔はしてないんだ。むしろ、言えてよかったって思ってる。」
りっちゃんは、さっぱりと、清々しい顔をしていた。
「私、琴子にずっと距離感じてた。
こんなに長くいるのに、お互い腹割って本音で話したことなかったから。琴子が全部譲ってくれるから、ケンカだってしたこと無かったし。」
「...うん。」
「...だから、琴子が初めて自分の気持ち言ってくれて、私も言えて、嬉しかったんだよ。」
りっちゃんは、滑らかな動きで、ブラシとクシを使いながら器用に私の髪の毛をまとめあげていた。
私は、鏡越しにそんなりっちゃんの手付きを見ながら言った。
「...でも、私やっぱり変われてないって思うよ。甘えてた。
これも自分に自信が無いってことなのか分からないけど、でも、結局口だけだったんだと思う。」
りっちゃんがしばらく黙って、それから、ゆっくりと言葉を選び始めた。
「...琴子、それは違うと思うな。
変わりたい、て思って、今までの琴子なら絶対須藤くんに声かけなかったのに自分からかけられたってことは、もう少しずつでも変わってきてるんだと思う。
もちろん、反省するのはいいよ。でも、一回で変われなかったからって、口だけって事じゃないよ。」
りっちゃんは、キッパリと言い切った。
「通過点なんだよ。」
...それは、私がずっと求めていた言葉だったように、すんなりと心の奥底へ吸い込まれていく。
…通過点…。
「...琴子が、進んでは戻って、また進み始めるのは、成長してる証、目標の自分になるまでの通過点なんだよ。
全部、琴子が『変わりたい』って思ってるが故だよ。
私は、そう思う。」
そう締めくくって、りっちゃんは可愛い蝶のピンで前髪を止めて、はい、でーきた!と声を高らげた。
右耳の上から始まった編み込みがカチューシャのように頭の真上を通っていき、左耳の後ろで終わっている。
目にかぶっていた前髪は横に流れピンで止められている。
私の面影を残しつつ、でも前より確実に垢抜けた私が、そこにはいた。
上の方をチラチラと遮る黒い影がなくなって、視界が広がったような気がする。
「...似合ってる。」
りっちゃんの言葉が素直に嬉しくて、私は鏡に微笑んでみた。