金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
里見先生って、やっぱり鋭い。
時々、全部お見通しよ!みたいな発言をする...。
心の内を当てられた瞬間のあの驚きが、まだ胸の中にくすぶっている。
私は、ふと思い返して気付いた。
...そう言えば。
...里美先生は、私が見た目をちょっと変えてみたことに「どうしたの!?」とか「なんで!?」とか聞かなかったな...。
普通、いきなりイメチェンした人がいたら、真っ先に飛んでくる質問だと思うんだけど...。
それとも、そんなこと、聞かなくても分かってるって事なのか。
その推測はかなり信憑性のあるもののように思えて、私は考えることを止めた。
カウンターをそのまま進み、利用表の前で立ち止まる。
意識して探すよりも早く、それは瞬間的に目に飛び込んでくる。
私は安堵のため息をついた。
良かった...今日も、須藤くん来てる...。
嬉しさと同時に、一気に心拍数が上がる。
私は手汗で滑り抜けていきそうなペンをしっかりと握って、いつも通り名前を書いた。
須藤くんとは対照的な、丸くて小さい字が並んでいく。
綺麗に書こうと意識し過ぎても全体のバランスがおかしくなってしまうし、だからと言ってサラサラ書くと元来の乱筆がバレてしまう...。
ある程度のスピードを保ちつつ丁寧に気を使うのがコツだ。
満足のいく字になんて、なったことが無いけれど。
今後なる気もしないけれど。
私はそっとボールペンを置いた。
癖でメガネを押し上げようとして、無いことにハッとする。
緊張が高まる。
いつもより、もっともっと。
心臓が今にも破裂しそうな勢いで胸を叩く。
須藤くん...どう思うかな...?
第2学習室までの道を、弾力性のある絨毯を、静かに踏みしめていく。
いつもの木の扉があって、窓はブラインドが下りていて覗けなくて、私は息を吐いた。
...顔があつい...。
ドアを、ゆっくりと、開けた。