金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
窓が、空いていたからかもしれない。
扉を押すと、いつもの音ともに、でもいつもより重く、ドアが開いた。
同時に、空いた隙間から私の顔にぶわっと風が吹き付けてきて、思わず、避けるように顔を横に向けて目をぎゅっと瞑った。
髪が全部後ろに流されて、顔が晒されるようだ。
極力いつも通り静かに閉めようとしたけれど、圧倒的な強さにドアは押され、部屋全体を揺さぶるような大きな音がなった。
私は一瞬身を縮こまらせて、ゆっくりと目を開けた。
ーーー須藤くんが、まじまじと私を見てた。
ぼやけた視界に、眩しいくらい、真っ直ぐな瞳で、彼は、私を見ていた。
ごきゅん、と喉がなった。
須藤くんが目を瞬いて、私を見つめ直して、それから、
パッと下を向いた。
...心臓を、一突きされたような衝撃だった。
須藤くんは、知らない。
須藤くんのちょっとした仕草に、私がこんなにも心を揺るがせていること...。
下手をしたら涙がボロリとこぼれでてしまいそうで、私は須藤くんから顔を隠すように前髪を整える。
鼓動と同調するようにズキンズキンと胸の奥の方が痛むのを感じながら、いつもの席に座った。
スクールバッグを隣の席に置いて、筆箱と、下敷きと、数学のプリントだけ出す。
シャーペンを、2回、ノックした。
...須藤くんは、私がいつもと少し違うなって、多分気付いてる。
でも、何も言ってくれなかったという事実が。その理由が。
どんどん、悪い方に悪い方に、考えは進んでいってしまう。
にわかにプリントの文字がぼやけてきて、私は書いていた手を止めた。
.......恥ずかしい。
須藤くんに、少しでも見てもらおうって、背伸びした自分が、恥ずかしい。
一人でぐちゃぐちゃ考え込んで、結果空回って、一人相撲している自分が、恥ずかしい。
顔が、赤く熱を帯びているのが分かる。
...なんてカッコ悪い。
だって、私
何も言ってくれなかった須藤くんに、怒ってるんじゃない。
こんなに悲しいのは
いつの間にか、私が須藤くんに何かを期待していたからだってこと。
私、心のどこかで、変わったねって言ってくれるとか、…褒めてくれるとか、須藤くんが何かしてくれることを期待していたんだ。
それが、ただ、どうしようもなく恥ずかしいの.....。
ぎゅっと、シャーペンを握りしめた。
須藤くんを、見る気になれない。
須藤くんを拒否するように、髪の毛を右側に流して遮断した。
私は深く俯いたまま、無心でひたすらプリントを解き始めた。