金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「小倉とカスタード、どっちがいい?」
須藤くんが微笑んで私に聞いた。
「...え、えっと」
ど、どうしよう。
途端に、選択に迫られた私は例のごとく悩み始める。
須藤くんはどっちがいいのかな。
男の人って、クリーム系は苦手だったりするよね...。
カスタードの方がより甘い気がするし。
...じゃあカスタードにしておく?
でも、須藤くんが甘党だったらどうしよう。
というかその前に、男の子だから甘いもの食べないとか、私の勝手な偏見だし失礼だよね...!
唸ってどちらかを選べない私を見て、須藤くんが今度は声を出して笑った。
「じゃあいいよ、半分こしよう。」
ドキン、とした。
...って、いや、私、ときめく意味が分からないよ、実に建設的なご意見だよ...!
そう自分に突っ込んで、須藤くんのアイディアを有り難く採用させてもらう。
「...う、うん!」
私が答えると、須藤くんが「ひとつ持っててくれる?」とたい焼きをひとつ私に手渡した。
焼きたてのたい焼きは、生地がフワフワであったかくて、食欲をかきたてる甘い香りが鼻腔をくすぐった。
「長谷川さんは、頭派?尻尾派?」
須藤くんが私の左隣に座って、包みを開けながら言う。
え、えっと改めて聞かれると...そこまで考えたことなかったけど...
「...あ、でも頭派!かな!
上の方って餡がすごい詰まってるから、それをだんだん下に押しながら食べると最後調度いいかなって。」
「あーなるほどね。」
須藤くんが感心したように声を高らげる。
「...す、須藤くんは...?」
私が聞かれたことは大体須藤くんに聞き返しているので、そろそろしつこがられるかな、と思ったけど、須藤くんは全然気にしない様子でサラッと言った。
「じゃあ、俺も頭派。」
須藤くんの横顔は髪で隠れていて、よく見えない。
須藤くんが、一体どういうつもりで言ったのかも、分からない。
...でも、じゃあって...じゃあって...!!
どうしても良いように期待してしまいたい私が、心の中で叫んだ。
須藤くんにはドキドキさせられっぱなしで、だけど、例え冗談でも、嬉しいなって思うんだ...。
すると、須藤くんが、ぐるんと私の方に頭を回して言った。
「あ、なんかそれ聞いたら申し訳なくなってきた...。
半分にしたら餡が頭側に寄っちゃうなーて思って縦に半分にしちゃったけど、見た目がアレだし、普通に尻尾側に餡押しながら横に分ければ良かったよね。」
なんかごめんね、と笑いながら。
私は渡されていたもう一つのたい焼きも、須藤くんと同じように縦に分けた。
そして、手早く須藤くんが分けた方の一つと自分の一つを交換して、二つをくっける。
「大丈夫、これで同時に上から食べていけば、味は二つだけど一匹に元通りだよ。」
須藤くんが私を見て...それから、目を細めて笑った。
「...なんでそんな妙に力強いの。」
...須藤くんが笑ったことが嬉しくて、私も一緒になって笑う。
心が、須藤くんでいっぱいになる。
「いただきます。」
そう呟いて、須藤くんと二人、隣に並んで食べ始めた。
中の餡はアツアツで舌を火傷する勢いで、でもそれをフーフーしながら頬張るのが美味しい。
涼しく、少し肌寒いくらいの風が、スーッとぬけていく。
でも内側からの色んなもので火照った体に、とても心地がよい風だ。
...今なら、すんなり言える気がした。