金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「...さっきは、驚かせてごめんね。」
私は鯛の腹の中の、小倉とカスタードが混ざりあっている様子を見ながらポツリと言った。
まだ辛うじて固形を保っている豆の周りに、ほんのり小豆色のクリームがまとわりついて、なんだか変な感じだ。
須藤くんは、何も言わずに食べ進めていた。
それでも、私の話にちゃんと耳を傾けて、受け入れてくれているのが空気で伝わってくる。
だから、私は話を続ける。
風は、私の髪を右から左に、須藤くんの方へさらっていく。
「...自分でもよく考えずにあんなこと...言っちゃって、なんなんだか分からなくて混乱しちゃって。」
...嘘が、ちょっとだけ。
あんな、告白紛いの、独占欲むき出しのことをつい口走ってしまった理由は、今ならハッキリ分かってる。
でも、それは言わずに、私は小倉とカスタードが混ざりあったところを、1口パクリとかじりつく。
見た目は決して良いとは言えなくて、一見合わなさそうなのに、びっくりするくらいマッチして美味しい。
須藤くんが、買ってきてくれたから...かもしれないけど...。
須藤くんが、顔を上げたのが分かった。
そして、少し、息を吐いたのも。
「...俺は、嬉しかったけど。」
サラッと、下手をすれば聞き逃してしまうくらい自然に、須藤くんがそう言った。
なんだかものすっごいことを言われたような気がするけれど、すごすぎてよく分からない。
動揺して、鯛の腹をただひたすら見つめる。
...え、それってそれって
心臓が早鐘のように鳴り出して、血液が体内をすごい勢いで駆け巡ってくる。
やっとの思いで驚きと期待で須藤くん方を盗み見ても、髪に隠れて何も分からない須藤くんの横顔。
...え、え?そういうことなのかな?
...それとも、違う?
...分からない。
...違うかもしれない。
.....でも、そうかもしれない.....。
私は小さく
「ありがとう。」
と呟くように言った。