金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
...須藤くんが、笑った。
「...じゃあ、決まり。」
って、目を細めて、どこかいたずらっぽく言う。
その瞬間、私はまさか、と思い至った。
...まさか、須藤くん全部計算して...!?
そう考えれば、さっきの狡い、誘導尋問の二択にも合点がいく。
最初から、私に、この答えしか選ばせないように...?
私は、カチャカチャと文房具をまとめる須藤くんを目で追って、それからギュッと目を瞑った。
...だとしたら、須藤くんがなんでそこまでやったかって...やっぱり全部私のためだ。
きっとここまで強引にでもやらないと、私が須藤くんに気を使って断るの分かってて...。
須藤くんの優しさが、改めて胸に沁みる。
「じゃあ、俺そっち行っていい?」
私への質問に、我に返って顔を上げると、須藤くんが必要最低限の勉強道具を持って立ち上がっていたところだった。
「...ちょっとこの距離感では、難しいからさ。」
私はハッとしてすぐさま席を立った。
「...ご、ごめん私が教えてもらう立場なのに...!私が須藤くんの方に行くよ!」
「え、いいよ。俺も教えてもらうし。」
…そ、そうなんだけど。
でも、何が問題かって、ただでさえ私のために気をつかってくれたのに、これ以上須藤くんを動かすわけにいかないってこと。
それでも「ううん、私が...。」と食い下がると、須藤くんがゆっくりと左右に首を振った。
「...長谷川さん、本当にいいよ。俺は、今すぐ動ける状態なんだし。」
優しく諭すような口調に、気付かされる。
...そうだ。
私、大事なのはここじゃないよ。
こんな問答で無駄な時間を割くくらいなら、サクサク次のことに進んだ方が遥かに効率的で、須藤くんの為にもなる。
私の行動が、余計須藤くんに迷惑をかけてしまってる...。
私がストンと腰を下ろして
「...ごめんね...。」
と呟くように言うと
「うん、次は長谷川さんに合わせてもらおうかな。」
って、またあの優しい目で。
私が楽になる言葉を、考えて言ってくれている。
...須藤くん、本当に、優しすぎるよ。
私は深く頷いた。
「...うん。ありがとう。」
やっぱり、須藤くんには謝罪の言葉より、感謝の言葉が似合うんだ。
そんな人だから、私は...。
私の正面の席の椅子を引いて腰を下ろした須藤くんを、私は眩しく見つめた。