金曜日の恋奏曲(ラプソディ)


「…片手じゃやりにくいと思うから、私が巻くねっ…。」



どこかまだテンパり気味ながら、私は言った。



あ、ごめん、と須藤くんが返答する。



席を立って、須藤くんの方に近づいた。



須藤くんが、通路側に体を向けてくれる。



私は屈んで、須藤くんの差し出した指の傷口に、まずティッシュを押し付けた。



ジワリ、とティッシュが赤く染まる。




「…ごめんね。」



そう言った須藤くんの声は本当に申し訳なさそうで、少し可愛いなと思ってしまった。



私は、ううん、と首を振る。



「…パッとこういうのが出てくるって、女の子って感じがする。」



須藤くんがどこか自虐的に笑った。



私はまた、ドキッとした。




それって、私を女の子として意識してるってこと…?




…でも残念ながら



「今日はたまたま持ってただけなんだけどね。」



私もそう言って笑う。



女子力を授けてくれた、りっちゃんに感謝だ。



ギュッと、ティッシュの上から指を軽く握った。



須藤くんが少し顔をしかめる。




「あ、ごめ、」



反射的に謝ると、大丈夫、と左右に首を振られた。



もう血は止まったみたいだ。



私はティッシュを取って、代わりに絆創膏を剥がして貼ろうとする。



カラフルな、星柄の絆創膏だ。



私は頬を赤らめた。



「…ごめんね、こういうのしか持ってなくて。」



「…いや、有り難いです。」



そうは言ってくれるけど、須藤くんも心なしか顔が赤く見える。



そうだよね、男の子がこんな派手めな絆創膏つけるとか普通に恥ずかしいよね…。



ゴメンナサイ、と心の中でもう一度謝った。




傷口に白い布部分がきてるのを確認して、片方を巻きつけた。




手が、震える。




曲がらないように、慎重に…。



でも、須藤くんに至近距離で見られてると思うと、やたらと緊張するんだ。



端がくっついていきそうになって、シワになるっ、と慌てて剥がした。




息を詰めて、丁寧に、もう片方も巻いた。




「…出来た!」




終わりの合図で、ポンッと指を叩いた。



大袈裟かも知らないけれど、小さな達成感みたいなのがこみ上げてきて、私は須藤くんに笑いかけた。



須藤くんは、下を向いて、指を確認する。



「…綺麗に、巻けてる。ありがとう。」



「いえいえ。」



私は腰を上げて、自分の席に戻った。



席に座った瞬間、妙な汗が出てきた。



なんて今更。



でも、バクバクと心臓が鳴る。




考えてみれば、かなり近い距離だった訳で…!



ドギマギして、顔が見られなかった。




「…右手だから書くのとかも大変だと思うけど、が、頑張ってね。」




変に意識してると思われたくなくて、なんてことなく言ったセリフだったけれど、どもるくらいなら黙っていればよかったと後悔した。




「…いや、本当に助かりました。」



須藤くんの声もなんだか小さめで、私はただ頷きを返した。




…なんだか、変な空気感になってしまった。



お互い、元の席に座ったら、なんだか我に返ったような、改めて思い返すとすごい恥ずかしいような。



というのをお互いに分かってしまって、照れくさいようなこっぱ恥ずかしいような、そんな空気。




私は熱を取り去るように顔を振って、今度こそ、と数学のプリントを参考に問題集を解き始めた。



金曜日のこの雰囲気に、静かに身を投じて。


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