金曜日の恋奏曲(ラプソディ)


図書室を出て、私は小走りで廊下を駆け抜けた。



りっちゃんが絶対心配してるって思うのもあったけど。



体が、ほてっていてすごく熱い。



そっと、服越しに、心臓に左手を置いた。






まだ。







まだドキドキが残ってる…。






なんだか心臓らへんがむずがゆくて、じっとしてられなくなる。





自然と足が進む速度を上げる。








…今日







初めて目が合った。







初めて声を聞いた。







初めて会話をした。










初めて…名前を呼ばれた。






私は、左手で心臓の上の服をぎゅっと握った。







そう、あの人…須藤くんは、私の名前を知っていたの…。






そう思ったら体の奥の方から熱いものがどんどん溢れてくる。





堪らなく私は左手に力を込めた。





ただ毎週金曜日2人だけが自習しているともなれば名前くらいは気にするだろう。





ただそれだけだと分かっていても、私のことを少しでも気にしていてくれたことが、こんなにも、嬉しい。




私と同じように、利用者表の私の名前を見て何か考えてくれたりしていたのだろうか、なんて。












…切ない。









こんなにも嬉しいのに、こんなにも切ない。







ぎゅうって、締め付けられる。








なんでかな。







…なんでかな、分からないけど。







体の奥の方から溢れる熱い何かが、喉をせり上がってきて、瞳の裏にもにじむ。










私はいつの間にか涙を流しながら全速力で走っている自分に気がついた。



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