金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
やっと見つけた
「だからさ、あっちは、確実に私を恋愛対象として見てないわけぇ〜」
りっちゃんはそう言って、憂いのため息をつきながら私にしなだれかかってきた。
昼下がりの中庭。
人気のあるスポットからはちょっと離れた、人気のないベンチ。
今日は天気が良かったので外でのお昼ご飯、からの恋話タイムが始まっていた。
「なんかさ、こうなってくるともう今更っていうか。なんかミョーな空気になっても気まずいし、私だって、そんなんになりたいわけじゃないし。」
りっちゃんの好きな人は、剣道部の同輩の、ずっと犬猿の中だった人らしく、今でこそ前より仲良くはなったものの、友達から先にいける気がしないんだとか。
「前は仲悪かった相手の、どこをそんな好きになったの?」
私がそう聞くと、りっちゃんはシャキッと起き上がった。
私は少し驚いて、りっちゃんの横顔を見つめる。
と、りっちゃんの顔が、見る間に赤く染まっていって。
そして、またぺしゃんと潰れた。
「本当にそれなんだよね〜なんでアイツなんだ〜」
りっちゃんは、顔を自分の膝下に埋めたまま、つらつらと喋りだした。
「顔も別に大したことないのに周りが囃し立てるから調子乗ってるし、ってか子供だし意地悪だし、なのに悔しいことに剣道は強くて私には容赦ないし、そのクセ、他の女子には手加減するから優しいってキャーキャー言われて、本当大嫌いでアイツだけは好きになんてならないと思ってたのに」
そこで、一息ついた。
「…気がついたら、大好きだったんだよねぇ。」
呟くように小さく、りっちゃんは言った。
その言い方は切なくて、でもどこか、嬉し気で。
りっちゃんも、心の底から今の恋が嫌で苦しんでいる、ということではないんだろう。
だとすれば、こういう憂いも含めて、恋するってことなのかな。
りっちゃんの悩んでいる姿は可愛らしく思えて、私には羨ましいような気さえした。
「…琴子は?須藤くんの、どこを好きになったの?」
と、すっかり油断していたところに、話の矛先がいきなり私へ向いた。
あからさまに動揺して、えええっっ、と声を漏らす。
須藤くんの名前が出ただけでこんなになるなんて、自分でもかなり重症だと思う。
私達を包む木陰が、風で左右に揺らめいた。
「…須藤くんを好きになったきっかけは…正直、分からない、かも。」
私は自分の足先を見つめながら、言葉を探す。
私にとって須藤くんは最初から特別な存在で、気になっていて、恋心を自覚したのこそ最近だけど、一番初めの好きになったきっかけ自体は何かと聞かれると…分からない、というのが本音だ。
…うん、気づいたらもう、好きだった。
そう言ったら、りっちゃんは空を見上げて、
「…みんな、そんなもんなのかなぁ。」
と言った。