金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
「…で、進展は?」
なおもずいずいと探りを入れるりっちゃんに、私は赤面した。
し、進展もなにも…。
「口実がなければ、一緒に帰ることも出来なかったですよ…。」
そう、つまりはそういう距離感。
須藤くんは優しくて、多分お互いにドキドキした時間を過ごしたことは分かっていて、でもそこから先の、ある一定のラインを、なかなか超えられない。
ちょこちょこそのラインを超えて近づけたかな、と思うときもあるけれど、それでもすぐ思い知らされる。
帰り際、もしかして須藤くんから誘ってくれないかな、なんて淡い期待をして。
でも、「絆創膏ありがとう」ってただそれだけ言って別れを告げた須藤くんに、自分本位の身勝手な期待だったと、現実を知る、そんな距離感。
「あー、もうすごい分かる。」
りっちゃんは空を仰いで笑った。
「一緒に帰ろう、って言って、なんで?ってなったら怖いんだよね。口実が無いと、そうなっちゃう可能性が十分ある不安定な関係だし。そんなこと言われた日には、こっちとあっちの気持ちの差をはっきり見せつけられるわけで、立ち直れる気がしないし。」
その通りだ。
結局、勇気がなくて、臆病なんだ。
でも、友達って言えるだけ、りっちゃんの方が近いかも。
私と須藤くんはどうしたってまだ『金曜日自習室にいる人』から抜けきれなくて、友達と言えるかはかなり怪しいところだ。
「難しいね…。」
思わず、そう呟いた。
あるいは、私達が回りくどくて、傍から見ればじれったいやり方をしているのかもしれない。
でも、今の私達のはこれが精いっぱいだ。
「…うん。」
りっちゃんがまた首をこてん、と私に預けて、賛同した。
「…じゃあ、今週の目標はお互い口実がない中、相手を誘って帰ると言うことで。」
口実がないと厳しい、と話した直後のこのセリフ。
力なく失笑しながら言ったりっちゃんは、どこまで本気だったのか。
冗談だとしたらちょっと面白かったし、ていうかどうであれ、もう笑うしかない。
そうだね、と私が言った時、ちょうど昼休み終了を知らせるチャイムが鳴った。