金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
私は惚れ惚れと受け取った本の表紙を眺め、開き、躍動感溢れる、マジックインキの自分の名前をなぞった。
はぁ~、と自然に息が漏れる。
この作家さんは、私が里見先生と知り合ってこの図書室に通うようになってからすぐ、里美先生にオススメされて、以来大好きになった人だ。
一度開けば、もう読む目が止まらなくなって、あっという間に世界に惹き込まれて、でも本当に面白いのは二回目で、秀逸な伏線は、本筋と展開される話の見事な駆け引きで。
…そう、あの日、須藤くんに拾ってもらって初めて話しかけてもらえた、あの本の作家さんだったりする。
私にとって、思い入れのある人なんだ。
だからこんなにも嬉しい。
一方的な心情だけど、本が人を結びつけてくれたんだ、みたいな、そういう感謝があったり。
私は喜びを噛み締めた。
利用表のところに行くと、その本を左脇に抱えて、ボールペンを手に取る。
書きながら、ちらり、と目を上げた。
右肩上がりの、濃く、はっきりとしたその名。
自然と、頬が緩む。
…人は、こういう気持ちを幸せって呼ぶのかな…。
ふふふ、と、堪えきれない笑みがこぼれる。
私は相当、浮かれていた。
ドキドキと高鳴る心は、淡いピンク色。
苦しさも切なさも全部を優しく包み込んだ、幸せの色。
進む足取りは軽やかに、少し浅くなった呼吸だって、嫌じゃない。
私は、カウンターを右に行って、本棚をいくつかすり抜けて、少し奥まったところにある第2学習室に向かって歩いた。
見えてくる扉の木目調が、今日はなんだってこんなに眩しいのか。