金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
近付きたいのかそれとも
あの日、りっちゃんも部活が少し長引いていて、結局来たのは私より後だった。
「ごめんね、待たせたよね。」
って言われたけど
「私も今来たところだったから大丈夫だよ。」
とは言わなかった。
「こんなに遅いなんて何かあったの?」
…って聞かれたく無かったから。
聞かれたく無かったのは、りっちゃんに心配をかけたくなかったから…。
ホントが半分、ウソが半分。
聞かれたく無かった理由は、心配かけたくなったのともう一つ、須藤くんのことを誰か他の人に話すのが嫌だったから。
おかしいよね…分かってる。
私と須藤くんのことは、私と須藤くんだけの2人だけの秘密にしておきたかった、なんて。
そんな大した間柄でもないし、そんな大したことがあったわけでもないのに。
それでも、なんとなく、ただなんとなく、言いたくなかった。
あの2人だけの時間は、差し込む夕日に縁取られた、特別なもの。
そして、手を伸ばせば届く距離にいた須藤くんを思い浮かべる。
ただそれだけで…。
ずっと2ヵ月間、名簿の名前を見つめて、横から盗み見していた人との距離が一気にあんなに近付くなんて、にわかに信じ難いことだった。
私は思い出す度にドキドキしながら、早く次の金曜日にならないかと待ちわびいていた。