金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
須藤くんの目は、今までになく大きく見開かれた。
鳩が豆鉄砲を食らった顔はこれか、とやけに納得する。
私の心の内に、そんな驚きに対する驚きと、微かにほっとした気持ちとが浮かんだ。
詳しいことは何もわかっていない中で、1つ確信出来たのは、私の質問が的外れだったということ。
嫌われたんじゃ、なかった。
それだけで、全然違う。
「…えっ。」
須藤くんは虚をつかれたような顔のまま、疑問符を飛ばした。
「…なんで?」
なんで?
…なんでそう思ったのかってこと?
それは…
「…分からない、けど……お、怒ってるのかなって」
ちょっと言葉に詰まった。
「…私が、触っちゃった…から…。」
尻すぼんで、声はフェードアウトする。
…あれ?
今になって、思う。
…私、変なこと聞いてる??
汗が流れかけた時、須藤くんが言った。
「…え、いや俺」
動揺を隠せない様子で目が泳ぐ。
「…全然、怒ってないし…ていうか…。」
驚いた表情のまま、頬が少し緩んだように見えた。
顎に置いていた片手を、口に当てる。
「…長谷川さんのこと、怒らせたと思ってたんだけど…。」
須藤くんが私を見る。
…今度は、私が驚く番だ。
驚嘆が、思いっきり喉まで出かけた。
え、私!?
「…っいや、全然、怒ってない、よ…。」
右手をぶんぶんと振る。
信じられない。
須藤くんが笑うのも分かる。
体から力が抜けていく。
…だって、それじゃあ、二人して、相手の様子を気にして、怒ってるって思わせてたってこと?
途端に、正面にある須藤くんの半笑いの顔が、物凄く…間抜けに思えて。
失礼かもしれないけど。
でも、須藤くんの様子からして、きっと須藤くんもそう思ったんだと思う。
お腹の方から笑いが込み上がってきて、私も両手で口を抑えた。
先に声を漏らしたのは須藤くんで、私が後へ続く。
だって、おかしい。
あんなに、あんなに考え込んで、不安だったのに。
あんなに仰々しく、覚悟決めたのに。
二人きりの部屋に、二つの控えめな笑い声が響く。
うん、間抜けで、おかしい。
おかしいよ。