金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
前にもこんなことあった。
須藤くんには、気付かされてばっかりだ。
…須藤くんが謝ってたことなんて、私と一緒だったんだ。
…恥ずかしかったのも。
なんで、気が付かなかったんだろう。
…須藤くんと私は、違う?
そりゃ、違うところもある。
けど、本当に須藤くんの気持ちを考えたら、私と共通していて分かることだって、沢山あるのに。
ハッと、顔を上げたら、目の前にある須藤くんとばっちり目が合った。
…須藤くんは
…こんなに、こんなに近くにいるんだから。
そう思ったら
ポロッて、何かが剥がれた気がした。
それが引き金となったように、一気に、ポロポロポロ、て。
剥がれてく。
今までの、私。
固まっていた私の考えみたいなのが、一斉に崩れ出す。
もう追いつかないくらい、早く早く。
全部、全部、壊れて
そして、新しく、構築される。
やっと気付いた。
…私が今までどんなに、自分基準で考えていたのか。
私が楽しい、私が嬉しい、私が幸せ。
私が恥ずかしい、私が悲しい、私が苦しい。
自分側からの世界しか知らなくて、だから、相手の本当の気持ちなんて想像することも出来なくて、だから、怯えていた。
当たり前のことなのに。
…多分、りっちゃんから言われた言葉とか、里美先生から教えられたこととか、これを、教えてくれようとしていた。
私はその度にちょっとずつ感じてはいて、でも今、やっとはっきりした形になって、しっかりと自覚した。
須藤くんと目線があったまま、私は息が上がっていた。
須藤くんが、まっすぐ見つめ返す。
…何故か泣きたい気分に、
…ちょっと前までなら、なってた。
けれど、違う。
やっと分かって
目の前に須藤くんがいて。
泣きたい?
そんなはずない。
違うよね?
…うん、違う。
こっちを見る須藤くんの顔は、どこか、キョトンとしてるように見える。
…須藤くん、恥ずかしいと、耳が赤くなるんだね。
そういえば、前もそうだった。
…ああ。
「………ふふふふふふふ。」
私がいきなり声を出して笑って、須藤くんが、ギョッとした顔をする。
私は両手で口を抑える。
でも、そんなんじゃ、抑えきれない。
私は下を向いてしばらく笑って。
ゆっくり須藤くんを見上げた。
須藤くんは、大丈夫?って顔で見てる。
いつの間にか、隠していた手も、顔から離れていて。
…そりゃそうだよね。
また、ふふって、笑ってしまった。
でもね、須藤くん、そんな顔も、
「………なんか、可愛い。」
私がそう言うと、須藤くんは
…耳だけじゃなく顔まで赤くして、慌てたように、腕をばってんにして隠した。
「ちょっ、なん…。」
余裕が、随分ないみたい。
私が余計に笑うと、少し怒ったように睨んで
「…はい、もう終わりっ。」
って
私の頭に手を置いて、須藤くんを見れないように下に向けられる。
…笑うことを忘れちゃったくらい、心臓が飛び跳ねた。
…須藤くんの手が、手が、私の頭に…っ!!
けど、須藤くんもすぐに離れて、バタッと机に突っ伏す。
「…ちょっと本気で、恥ずかしいんだけど…。」
…今にも消え入りそうなその声は、確かに笑いを含んでいて。
私がまたドキドキしちゃったのは当然のこと。
…なんて、幸せな時間。