金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
月曜日の1時間目は、やたらと眠い。
しかも二時間続きで英語となると、先生の読む英文が、容赦なく私をアナザーワールドで導いていくようだ。
そんな時にもぼんやりと、私の脳裏には須藤くんが浮かぶ。
先週のことを思い出しただけで…大分、ニヤついてしまう。
私たちの時間は、金曜日のあの時間にしかない。
それが一層この恋心を高ぶらせている。
それは、絶対、ある。
私たちの、今の、程よく離れた距離感。
須藤くんのことをもっと知りたいしもっと近付きたいけど…そこから更に踏み込むのは難しい。
要するになんの話かというと。
…付き合うってことは、想像出来ないんだよね…。
って私何様なんだ、と突っ込んだ。
…うん、でも、確かに。
もし付き合ったら、二人の時間は金曜日のあの部屋から飛び出して、公のものとなるわけで、二人の世界の住人が今まで通り二人だけ、というわけにはいかない。
それは良いのか悪いのか…。
私には、わからない。
きっとどこかで、わかりたくないと思ってる。
「…はい、この熟語、覚えて~。テストに出るよ。」
先生が言った。
私は辛うじて繋いでいる意識の中で、それを聞き取る。
…どこ?
…とりあえず、マークしとこう…。
ペンケースを開いて、ペンを探って
ーーー瞬間、目が覚めた。
パチッと、自分の手の中のそれを凝視する。
私の視界に飛び込んできたのは…水色の蛍光ペン。
にわかに、拍動のスピードが上がる。
…全然、気がつかなかった。
こないだ借りてそのまま、持って帰っちゃったんだ…。
私は記憶を振り返る。
確かに、あの後は、須藤くんの質問が終わったら適当にその辺にあるやつをペンケースに入れたかもしれない。
なんだか妙に意識しちゃって恥ずかしくなって、不必要になった瞬間、須藤くんから離れたから。
須藤くんも、私が言ったことを急いでメモしてたから、あんまりよく見ないで入れてた気がするし…。
…ん?ということは?
私は思いついてペンケースの中を見た。
…私の黄色い蛍光ペンが、無い。
…つまり…
…私の蛍光ペンは今頃須藤くんが持ってるのか…!
更に、ドキドキが加速した。
だって、もしかして、須藤くんも今頃気づいてるかもしれない。
そうしたら、私がいなくても、私のことを思い出してくれているかもしれない。
…それってなんか、見えなくても繋がってるみたいで。
純粋に、嬉しい、と思った。
…金曜日の、あの時以外にも、私たちの時間は生まれているのかもしれないってことを、私は嬉しく感じたんだ。
…お借りします…。
私は心内でそう告げて、キャップを開ける。
目に鮮やかな蛍光色は、私の視界をパッとそこだけ色付けた。
心做しか、あの部屋で借りた時よりも、鮮度が高く見える。
…あぁそっか。
背景、こっちの方がモノクロだから。
須藤くんがいる空間の方が、全て鮮やかに映っていたから、だ…。
向きを確認して線をひこうとした時に、先が、私のより潰されてるな、と思った。
…須藤くん、筆圧高いからかな。
ふふって、笑いそうになって、慌ててあたりを見回す。
今誰かに見られたら、1人でペンを見てニヤニヤ、なんて完全にアウトだ。
私はギュッとペンを握りしめて、丁寧に文をマークした。
須藤くんも今私のことを考えてくれているとしたら、私たちは会えなくても繋がってるから大丈夫だね。
…なんて、どこかで聞いたことのあるような、むずがゆいことを平気で考えながら。