金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
その1本のペンが与えた影響は大きかった。
それがペンケースに入ってると思うだけで、うきうきして、歯がゆくて、何をするにも須藤くんが味方についてくれてるような、そんな気分になって。
いつもは長いと感じている一週間が、瞬く間に過ぎていった。
…はやく会いたい。
そんな気持ちが、私を突き動かす。
…好き。
…好きです、須藤くん…。
そうやって、水色の蛍光ペンを握りしめる。
それが、須藤くんそのものの象徴であるように、大切に…。
りっちゃんが私に声をかけた。
「…ちょっと琴子~。お昼休みになったけど?食べないの?」
私はギクッとして声のする方を見る。
りっちゃんはいつも通り、前の席の椅子を私の方へ向けて座ろうとしていたところだった。
「…あっ、ごめん。食べる食べる。」
急いで握っていたペンをペンケースに戻した。
りっちゃんは、そんな私を見て目を細めた。
「…なに?なんか琴子、あーやーしーいー。」
「…えっ?」
私の顔には冷や汗が伝う。
…いや、別に秘密にしておきたいとかじゃないけど、好きな人のペン握りしめて心の中で告白、とか、恥ずかしすぎる。
「今日金曜日だから?浮かれてるの?」
…さらにギクッ。それはあながち間違いでもないから。
私は笑ってその場をごまかそうとした。
でも、りっちゃんの目はキランと光って、背筋がぞわっとしたとき、声がした。
「長谷川さーん!呼ばれてるー!」
教室のドアの方を見てみると、そこで腕を組んで待っていたのは
「「…梅田さん?」」
りっちゃんと私の声が、重なる。
りっちゃんが、あからさまに嫌そうな顔した。
そりゃあそうだ。
こないだあったことが、あったことだし。
「…琴子、無理していかなくていいんじゃない?」
りっちゃんが鼻にシワを寄せたまま言う。
「…うん、でも…。」
まさか、梅田さんがまた来るとは思わなかった。
もしかしなくても、須藤くんのことだろう。
言うなれば私と梅田さんは恋敵のようなもので、私が梅田さんにあまり会いたくないと思うように、梅田さんだって私と積極的に関わりたくは無いはずなのだ。
だけど、こうやってわざわざ来たってことは…。
「…何か、大事な話があるのかも。」
私は椅子を引いて立ち上がった。
「ごめん、ちょっと行ってくるね。」
りっちゃんはやれやれ、というようにため息をつく。
「…まぁ、琴子ならそう言うと思った。
ごめん、じゃないから、わたしのことは気にせず行ってきな。
私、今回は着いていったりしないから安心して。」
うん、と私は深く頷く。
ドアにもたれて腕を組む梅田さんの方に、走っていった。