金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
驚いた。
…と言ったら、失礼だろうか。
失礼だな。
私が今まで梅田さんのことを見た目だけで判断してたって言ってるようなものだから。
けれど、実際に、私は梅田さんがハッキリ私に謝ったことが意外で、ビックリしていた。
梅田さんは目線を逸らさずに続ける。
「一方的に怒鳴って、あたしの都合で問い詰めたりして、嫌な思いさせたと思う。ごめんなさい。」
そう言って、頭を下げる。
それなりに近い距離にいるわけだから、私の方に頭がぐっと迫ってきて、私は少し身を引く。
「…いや、気にしてないよ……。」
っていうのは嘘だけど…と私は続けた。
言葉を、選んだ。
あれだけのことをするって言うのは、きっと。
「…梅田さんは、相当須藤くんのことが好きなんだなぁって、思ったよ。」
…これは、確かに思ったことだ。
…けど、なんか、返事になってない気がする。
でも、梅田さんは顔をバッとあげて、
「そうなの!」
と頷いた。
その勢いに、気圧された。
梅田さんはまた座り直して、今度は何か思い出すように目を伏せた。
「…あたし、悠太くんのことがずっと好きでさ。悠太くんって、周りの男子と全然違うんだよね。
上辺だけじゃなくてその人自身を見て会話してくれるっていうか、なんか、頭いいし、周りをよく見てるし。」
淡々と話し出す梅田さんに、うんうんうん、と私は相槌を打つ。
またまた驚きだ。
梅田さんが、ちゃんと須藤くんの内面のことで好きになっていたなんて。
…って思う私はやっぱり、梅田さんを上辺だけで判断しているってことで、そういうところ、私と須藤くん正反対なんだなぁ…とか。
私の頷きに、梅田さんは目を輝かせた。
「えっ、分かる!?」
私の目もきっと輝いていたことだろう。
「分かるよ!」
私は強く肯定する。
「…賢くて、優しくて、自分の気持ちを優先させるんじゃなくて、相手に寄り添ってくれるみたいな。」
私がそう言うと、梅田さんも
「そうそうそう!」
と、同意した。
そして、ポツリと零す。
「…ホント、あたしとは正反対で。」
梅田さんの台詞に、私はハッとした。
つい今さっき、聞いた言葉だ。
…私、ずっと須藤くんと私は似てるって思ってた。
けれど、こうやって聞いてみると、皆にいい印象を与えている須藤くんと、私は違う。
須藤くんのどこを好きになったの?って、いつかの日にりっちゃんが聞いたことが脳裏に蘇る。
…私も、須藤くんに惹かれたきっかけは、根本的な部分で、須藤くんと私が正反対だったから、なのかもしれない。
その考えには、妙な説得力があった。
私は人に譲っちゃうタイプだから、表面ではいい人に見えてるかもしれない。
でもそれはただ、自分の意見を言い出すのが怖いってだけだ。
須藤くんもどちらかと言うと、自分は譲って他の人に選ばせてあげるタイプだろう。
でもそれはきっと、周りをよく見て気遣っているからで、自分本位な理由からではない。
須藤くんて、そういう人だ。
てことは…。
私は手をギュッと握りしめて、梅田さんの顔を見た。
「…私も、だよ。私も多分、元々須藤くんと正反対なんだ。
もしかしたら…私と梅田さんって、意外と似てるところがあるのかもね?」
私の疑問に、梅田さんは少し目を見開いて…フッと、笑った。
「…確かに。」
わ、梅田さんて…なんか雰囲気がフワってなって、こんなに優しい顔になるんだ…。
驚きポイント更に加点だ。
梅田さんは私に言った。
「…あたし、焦ってたんだ。悠太くんの良さは、周りに気付かれにくかったから、ちょっとずつアピって、悠太くんも私と話してくれるようになって。ちょっと自信が出てきてた。」
…そう話す横顔は、やっぱり、恋する女の子。
りっちゃんと同じで、すごく可愛く見える。
「そんな時だったのね。長谷川さんと悠太くんが一緒に帰ってた、て言われたの。」
こっちを向いた梅田さんは、どこか寂しげな目をしていた。