金曜日の恋奏曲(ラプソディ)






真っ黒の世界に、私は一人きりだった。



混沌とした思考に、2本の線がひゅるって、どこからともなく現れた。



ぐるぐる回りながら、何かを形作っていく。



…名前?



線は紐みたいに絡まって、二人の名前を表す文字になる。



…あ、なんかこの景色、見たことある。



利用表にはいつもの字。



でも、その日は"須藤悠太"の"太"の字の右ばらいが、すっと伸びて次の欄にまで侵入してた。



私が書く欄にまで。



それだけでキュンっとしてしまったなんて、そろそろ末期かもしれない。



それさえも、愛おしくてたまらないなんて。



私はいつもより少し緊張して名前を書く。



"太"の右ばらいと私の"琴"の横棒が、あと少しで触れそうな距離にいる。



でもギリギリ、届いていない…。



"悠太"と"琴子"は届きそうで届いていない。



...そう、届いていないんだ。






思考の中を、瞬間にして真っ黒い何かが駆けていった。



全部が真っ黒に塗り潰される。



私はまた、混沌の中に一人ぼっちだ。




分かった気がした。



どんなに近くても、それは届かないんだ。




永遠に、変わることなく。






......二つは、永遠に、交わることがないの。




< 93 / 130 >

この作品をシェア

pagetop