金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
真っ黒の世界に、私は一人きりだった。
混沌とした思考に、2本の線がひゅるって、どこからともなく現れた。
ぐるぐる回りながら、何かを形作っていく。
…名前?
線は紐みたいに絡まって、二人の名前を表す文字になる。
…あ、なんかこの景色、見たことある。
利用表にはいつもの字。
でも、その日は"須藤悠太"の"太"の字の右ばらいが、すっと伸びて次の欄にまで侵入してた。
私が書く欄にまで。
それだけでキュンっとしてしまったなんて、そろそろ末期かもしれない。
それさえも、愛おしくてたまらないなんて。
私はいつもより少し緊張して名前を書く。
"太"の右ばらいと私の"琴"の横棒が、あと少しで触れそうな距離にいる。
でもギリギリ、届いていない…。
"悠太"と"琴子"は届きそうで届いていない。
...そう、届いていないんだ。
思考の中を、瞬間にして真っ黒い何かが駆けていった。
全部が真っ黒に塗り潰される。
私はまた、混沌の中に一人ぼっちだ。
分かった気がした。
どんなに近くても、それは届かないんだ。
永遠に、変わることなく。
......二つは、永遠に、交わることがないの。