金曜日の恋奏曲(ラプソディ)


来週の、火曜日・水曜日・木曜日が期末試験だ。



1週間前から部活はお休みなので、今日りっちゃんの部活は無い。



放課後、私とりっちゃんは教室でクダを巻いていた。



…私もあんまり、図書室に行きたくない気分だったから。



「部活が無い。」



りっちゃんは数学の教科書を虚ろな目で見つめている。



「部活が無い。」



無表情のまま口だけ動かすりっちゃんは、なんか怖い。



「…うん、渡辺くんに会えないね。」



私がそう言ってみると、りっちゃんが固まった。



まぁ元々固まっていたに等しいけれど、口が半開きのまま目に見えて止まった。



パタリ、とりっちゃんは教科書を顔にたおして、顔を隠す。



私が見ていると、りっちゃんは深い、ため息をついた。



「…ダメだぁー。ホントもう大好きだー。」



りっちゃんの思いがけない公開告白に、私は笑う。



試験前1週間を切って、教室に残っている人は他に誰もいなかった。



皆家に帰って勉強するか…図書室に行ってるんだ。



私は下唇を噛んだ。



…私はまだ、りっちゃんに"須藤くんの好きな人"のことを言っていない。




昼休み、あの後教室へ戻ったら



「…梅田さん、大丈夫だった?」



ってりっちゃんが聞いてきたから



「大丈夫も何も、本当はすごい良い人だったよ。」



って答えた。



りっちゃんは安心したように頷いて、他にも少し聞きたそうな顔をした後、結局何も無かったようにご飯を食べ出した。



…私の様子が変だとは、気付かれてると思う。



でも、何も聞かない。



多分、私がいつか話すって、信じてくれてる。



りっちゃんは優しい。



それが今は…少しムカムカする。



なんて。



灰色がまた、内側に膨らんでくる。



…あぁ、私が嫌いな私が出てくる。




その時、ガラッと教室のドアが開いた。



パッと前を見ると、担任の、大西先生だ。



社会科の熊みたいな男の先生って言えば、皆大体分かるような風貌。



大西先生は私達を見つけると、目を輝かせた。



「…お、お前ら調度良いところに!」




…なんだか悪い予感がする。



私とりっちゃんは顔を見合わせた。



大西先生はニコニコして近付いてきた。



「月曜日にクラスに配らなきゃならないプリントがあるんだけどなぁ、今日ホチキス止めするつもりが、職員会議が入っちゃって困ってたんだよ。お前ら…」



最後まで聞く前に察したりっちゃんが、ぴしゃりと言った。



「先生、うちら来週テストですから。」



「分かってるけどさぁぁ!」



大西先生がガックリと肩を落とした。



「頼むよ…。お前らなら勉強しなくて大丈夫なんじゃないか…。クラス分だけだしすぐ終わるよちゃっちゃと2時間くらいなら…。」



ブツブツと唱える先生に、りっちゃんがツッコミを入れる。



「いや担任が勉強しなくていいとか言っちゃダメでしょ。」



先生はなおも食い下がった。



「それにさぁ、菱田お前…」



チラ、と目だけをりっちゃんに向けた。




「…学級委員だろ?」




…りっちゃんは、椅子から立ち上がって猛抗議した。




「待って待って、それはズルい!今までそんなことしたこと無いし、最初決める時形だけのようなもんだって言ったじゃんっ!」



でも先生はそんなこと気にも留めない様子で、首を竦める。



「はぁ~俺だってこんなこと言いたく無いんだけどなぁ~。」



「だったら言うなー!」



りっちゃんは先生に掴みかかった。



「そんなん今日の日直とかにやらせればいいでしょーよ!日直の仕事じゃんそんなちょっとした雑用なんて。」



大西先生が急に真面目な顔になった。



「…お前…本当にそれでいいのか?」



りっちゃんはいきなりの先生の変化に、困惑したようだ。



「…え、何?本当にいいですけど。」



大西先生が眉を潜めた。



「…ファイナルアンサー?」



「しつこいな!いいってば!!」



りっちゃんはやけくそ気味に叫んだ。



…今まで一言も口を開いていなかった私は、遠慮がちに割って入る。






「…今日の日直、私です。」




(主にりっちゃんの周りの)空気が、固まった。





「じゃ、お前ら2人に決まりだな。」





フフン、と大西先生は笑った。

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