金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
私達は職員室を曲がった先にある、ちょっとした作業スペースに連れて来られた。
丸い机にプリントがどどんと五種類置かれてる。
これらを一枚ずつ取ってホチキス止めしろということらしい。
「じゃ、よろしくな!」
大西先生は明るく言うと、職員室に戻っていった。
「…ったくホントにさぁ。」
りっちゃんが小さい声でぼやいて、腰を下ろした。
私も後に続く。
「しかも五種類?こんなに多いなんて聞いてないんだけど。」
文句は言いながらも、手はチャキチャキと作業をこなし始めている。
りっちゃんらしいな、とか思って、私もホチキスを手に取った。
しばらくの無言が広がる。
私もりっちゃんも、どちらかというと几帳面な方に入るのか、トントンときっちり揃えなければ気が済まないので、作業は丁寧にこなされていく。
そのうち、無心で機械的にやっても体がスムーズに動くようになってきて、今の私には良い時間に感じた。
と、りっちゃんが私に話しかけた。
「琴子今日は図書室行かなくていいの?」
核心を突くような質問に、ドキリとする。
パチン、と止めて左の束に重ねる。
「りっちゃんこそ、会いに行かなくていいの?」
卑怯な返事。
逃げて、りっちゃんに返すなんて。
でも、りっちゃんもギクリとしたようだ。
「…私はさー。部活、無いし。」
「でも、それを嘆いてたじゃん。本当は会いたいんじゃないの?」
…なんでちょっと、語気が強まってしまうんだろう。
自分で言いながら、まるで追い詰めてるみたいになった、と思った。
りっちゃんは少し黙って、でも普通に返事をした。
「部活も無いのに会う約束取り付けるとか…ハードル高すぎるよ。」
…いつもなら、共感していただろう。
でも、私は内心、イラッとした。
気付いたら、胸がもう灰色の感情でいっぱいで、息苦しい。
「…実はさ。」
りっちゃんが手を伸ばして、私の方にあるプリントを一枚とった。
「さっきケータイ見たらアイツから連絡来てたんだよね。…でも、まだ開けてなくて。」
…だから、何?
って、言いそうになった。
私が私じゃないみたいだ。
…結局、幸せアピールなの?
…いや違うでしょどう考えても。ひねくれ過ぎだって。
自問自答する。
どうしてこうなってしまうんだろう。
りっちゃんはいくらだって私の取り留めの無い話を聞いてくれたのに、どうして今私はそれがどうしても出来ない、と思うんだろう。