金曜日の恋奏曲(ラプソディ)
りっちゃんが返事を求めているようだったので、私は口を開いた。
「…見たければ開ければいいし、嫌なら見なければいい。」
…我ながら、酷い返事だと思う。
そんなことりっちゃんが誰よりも分かってるし、私だったらそんなこと出来るはずがないのに。
りっちゃんが、ホチキスを机に置いた。
「…琴子、どうしたの?」
私はりっちゃんの方をちらりとも見ずに、手を動かす。
りっちゃんが、じっと、こっちを見てるのが分かる。
「思ったことを言っただけだよ。」
自分でも驚くくらい、冷徹な声が出た。
最高に感じが悪い。
自覚してる。でも、止まらない。
りっちゃんは軽く咳払いをした。
「…だったら私だって言わせてもらうけど、琴子昼休みからずっと、おかしいよ。ずっと何も聞かなかったけど、私気付いてるから。」
…知ってるよ。
りっちゃんが気付いてることは知ってて、でも言わなかったんだよ。
それなのに何?あなたのこと分かってるけどきかなかったのよ、って優しい子気取り?
実際りっちゃんは優しいって分かっているけれど、今はそれを好意的に受け取ることが出来なかった。
押し黙った私に、りっちゃんが声のボリュームを上げた。
「…そんなこと言うなら琴子だって、強がってないで須藤くんに会いに行けばいいじゃん!」
バン!
と、私は机に両手をついた。
ジーン、と手のひらが熱くなる。
誰よりも、私が驚いた。
でも、りっちゃんの言った事は、聞き捨てならない。
強がってる?誰が?私が?
そんなんじゃない。
…何も、何も知らないくせに。
「…昼休み、梅田さんに聞いたの。」
顔が熱い。
手も。
頭がぼうっとする。
でも、私の口から発せられる声は驚くほど冷たい。
「須藤くん、好きな人がいるんだって。ずっと前から。」
息を吸って、間を置いた。
声が、震えそうになったから。
「…明らかに、私じゃないの。」
自分で言っといて、また、傷付く。
どうすればいいの?
須藤くんに他の好きな人がいるって分かっててそれでも頑張れるほど、私の神経は図太くない。
こんな気持ち、
「…りっちゃんには分からないよ!」
昼休みのことを話していなかったんだから、当然。
私がりっちゃんの立場だとしても、きっとりっちゃんみたいに困るだろう。
理屈ではそう分かっても、感情はそう上手くいかない。
あたりが、しん…と静まった。