金曜日の恋奏曲(ラプソディ)




りっちゃんはしばらく私をただ静かに見つめ返していた。



そしておもむろに、スカートのポケットからケータイを取り出した。



職員室が近いから、バレないようにこっそりと、だけど。



何かを手早く操作する。



確認するように目を流して、読み上げた。



「…『今どこにいる?次の大会の登録用紙出してないのお前だけなんだけど。顧問には黙っておくからすぐさま提出しろ。駅前のドトールで待つ。』」



ふぅ、とりっちゃんが息を吐いた。



「…ただの業務連絡だった。でも私、開けられなかった。琴子が言ってくれなきゃ、1人では読めなかった。」



りっちゃんが、椅子を揺らして、席を立った。



ガタン、と音が響く。



「琴子、さっき言い方はすごい感じ悪かったけど、言ってることは全部まともだった。
私が会いたいなら会いに行けばいいことだし、会いに行かないって思うならそれだけの気持ちだったってこと。
琴子は何も、間違ってない。その通りだなって、思ったよ。」



私は目を伏せた。



りっちゃんと目を合わせられなかった。



りっちゃんは続ける。



「でもね、だったら琴子だって、そうなんじゃないの。」



りっちゃんの言ってることは聞きたくないって、私の中で下らない意地が暴れてる。



でもりっちゃんはまだ、私が聞きたくない言葉を送り続ける。



「私は琴子の事情知らないよ。けど、琴子が迷ってるなら、私だって背中を押してあげたい。
それは、ダメなことなの?」



いつもならきっと、この辺で折れてた。



りっちゃんの言っていることの方が、圧倒的に正しい。



誰の目にも明らかだ。



…だから私は今、耳を塞いでしまいたい、と思っている。



どうしようもない。




「…りっちゃんには分からないよ。」




そう言えばもう私の勝ちみたいに、それだけを繰り返す。



何かのドラマみたいに。



ただ逃げてるだけだって、分かっているのに。



それしか言えないってだけのことなのに。



なんでこんなに私は須藤くんに会いたくないんだろうか。



りっちゃんの助言を聞きたくないくらい。



考えたら、答えは簡単に出た。



ああ、そっか、私、須藤くんと会うことを想像しただけでこんなにも






「……怖いんだよ……!」





私は絞り出すように言った。



自分の心の内に秘めていたことを、やっと、言葉にした。




…怖い。



…どうしようもなく、怖い。



…この恐怖は絶対、どんなに想像したって、私にしか分からないくらい。






…りっちゃんには絶対分からないよ。






何かの呪文のように、その言葉をまた、繰り返した。



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