Melt

4限、自習の時間。

最近先生方の出張が多い。教科書は進まないし、プリントは簡易化していくし・・・。

すでに課題を終わらせてしまって暇すぎた私は、監視の先生もいないので、教室を抜け出して茶道部へ行くことにする。
どうせ、昼休みだし。

お湯でも沸かして、カフェラテでも飲もうかな。インスタントだけど。
あ、そういえばお菓子も持ってきたんだった。ちょうどいいや。


茶道部の部室の鍵を開けて、まっすぐソファーへ。
あぁ、愛しの座椅子ソファー・・・。最近は昼休みも放課後も、先輩が占領してて使えなかったから、存分に堪能しよう。

畳の上をずりずりと這うようにしてソファーへと転がり込、む・・・・・・・・・あ?


「・・・なんか先輩の匂いがする」


うわ、なんかやだな・・・。
・・・先輩がここで寝たときは、私の匂いがしたわけか。それもなんかやだな。

なにやらもやもやした気持ちになったので、とりあえずお湯を沸かすことにする。
粉末のカフェラテの袋を振りながら、カップの準備をして、ついでに角砂糖の蓋も開けておく。
そのうちにお湯が沸いて、私はカップにお湯と粉末を入れた。

ちなみに、お湯から入れる派だ。


「・・・なんだこの匂い」
「へぁ!!?!」


後ろから聞こえた声にポットを持ったまま振り返る。
訝しげにこちらを見て、納得したように鼻をフンと鳴らした先輩。


「ふん、茶道部でカフェラテ」
「文句がありますか!文句が!!」
「別に」


畳の上を進み、我が物顔でソファーに座った先輩をジト目で見る。欲を言えば「私のソファーなんだぞ」という思いが伝わればいいと思って見つめる。


「・・・何」


あれ、そう言えばまだ昼休みじゃないのに。


「や、特に何もないですけど・・・」


あそ、と短い返事をしてから、疲れたようにパタリと倒れこむ先輩を、私はなんとなく眺める。
まぁ、先生方の出張も多いし、先輩のクラスも自習か何かだったのだろう。

・・・先輩は何か飲むだろうか。


「・・・コーヒーありますよ」
「・・・茶道部でしょ」
「お茶もあります。点てましょうか」


返事もせず黙り込んだ先輩は、私から背を向けていて表情は見えない。
きっと眠いのだろうと思って、私は黙って窓辺の壁に背を凭れた。


「・・・・・・、ふ・・・」


小さなあくびが聞こえて、やっぱり眠いのだと知る。
それにしても、この人はどうしていつでも寝不足なのだろう。ここに来て横になると、割とすぐに眠ってしまう。
・・・ほんと、謎が多い人だ。

読みかけだった本を開いて、見開きのページを読み終えようという頃・・・ソファーの方から声が聞こえた。


「・・・ねぇ、」
「ん?あ、はい」
「ソファー、使いたいよね?」


そりゃそうだ。私のものだから。
でも相手が何を考えているかわからない以上、安易に返事をしてはいけないだろう。
そう思って黙っていると、起き上がった先輩が片側に寄って、もう片側をポンポンと叩く。


「はい、おいで」


にっこり可愛い笑顔付きで誘われるけれど、トラップにしか思えない。


「やややいいですいいです先輩使ってくださいよそれが私の望みですって」
「嘘つけ。さっき恨むような目でこっち見てただろ」


気付いてたなら早急に退いて欲しかった。


「いいから、こっちきなよ」
「・・・」
「別に何もしないから。そんな魅力、お前にはないよ」
「あ、先輩ってほんとムカつくぅー」


知ってたけどさ・・・。

本を片手にふらふらと先輩の隣へ座ると、ごく自然に私の膝へ頭を乗せてきた。


「・・・・・・あ?!」
「っ、なに、うるさいな・・・」
「もしかして枕欲しかっただけですか、やはりムカつきますね」


そう言うと、私をジッと見上げる先輩。

な、なんですか・・・。


「そうだよ」


言いながら横を向いて、私のお腹の方を向いた。
待て待て待てなんでそっちを向くんだヤメロ。デブバレる。


「先輩せめて外側向いてください、外側」
「・・・」
「・・・おーい?」


・・・・・・無視か・・・切ないわ。
しかも完全にこのまま寝る態勢だし。人生初の膝枕がこんな外道に捧げることになるなんて、ほんと、切ない・・・。


「はあぁ、可哀想な私」
「・・・るっさ」
「はいすいません」


この先輩をどうにかすることを早々に諦めた私は、膝の上の人はいないものだと言い聞かせながら読みかけの本に集中するしかなかった。


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