恋色紅茶~コイイロ・コウチャ~
舌の上で解けるようなミルクティーの甘みは、どうも砂糖の入れ過ぎのように感じた。
私はまだ、横にいる彼を見られずにいる。


「…最初に会った時、よくもまあこんな若い娘さんが俺なんかと付き合ってくれるもんだと思ったけど」

年上の俺だって、寂しい時あるんだけどね。


彼らしくもない、掠れた声だった。
その時になってようやく私は彼を見たが、彼はもう、いつもと同じ優しい笑顔を浮かべていた。


「ちょっと、マグを置いてごらんよ」

「え…何で…」

「ん。いいから、…ほら」


ほとんど無理やりに、持っていたマグを机へ置かれた。

置いた箇所が、何があってマグが倒れても、書類やパソコンに被害が及ばない位置だったのはさすがだと思う。

そう、何があっても。



いつも、紳士的。決して私の気持ちの底から掻き回すような事はしない。

そんな彼に、唇を奪われた。


驚いて咄嗟に離れようとすれば、その僅かな隙間を狙われ、更に強く強く唇を重ねられる。

逃げようとしても、顎を指で触られたままで、どうも抵抗の力を奪われていく。


自分でも驚くほど、甘い吐息が漏れた。
その変化に、彼がゆっくりと目をすがめる。


「…ああ、いいね…もう少し、させて」


歯茎を舌で柔らかく撫で回されていく。

ちゅ、ちゅ、と粘膜が絡み合う音に、私は気恥ずかしく感じられてしまって、もう目を瞑ることしかできなくなった。

飲んでいた甘いミルクティーの味は更に強く感じられたけれど、果たしてそれは私の妄想だったのだろうか。


ふ…と生温い吐息が、二つ交わる。

唇の薄い皮膚に感じた彼の吐息の温度は、私のそれとほとんど変わらなかった。



ようやく深いキスを終えた彼は、手慣れたように2,3度私の頬を撫で、先ほどの色気を感じさせないほど穏やかな笑みを見せた。


「じゃあ、そろそろおいとましようかな」

「え?…今夜はもう、帰るんですか」


それは、初めて吐露した自分の気持ちの端っこだった。

彼もそれに気付いたのか。
ほんの少しだけ目を見開いたのち、しかしすぐに目尻に皺を浮かばせる。

まるで小さい子をあやすように、私の髪をくしゃくしゃと撫でて。


「大丈夫、君ならやれるから。俺の見る目を信じなさいよ」


ぎゅう、と挨拶のように軽く、けれどどこか名残惜しいハグを一つして。



「…お疲れ様。
帰ったら、ゆっくりお風呂に浸かって寝なさいね」


さようなら。


聞きなれない彼の挨拶に、瞬きを一つ。

その瞬間にはもう、スラリとした長身はそこに無かった。



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