ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
「母さんは、寂しくないのですか?」
「あるとないとでは、ない方がいいのよ。“私”は」
含みある言い方は、その娘も同じであるとは思っていない表れ。
「彼の杖なら、お玉じゃなくても火ぐらい出せるでしょ。はい」
出された杖を受け取る。
母はやっぱり娘の理解者だと涙する前に。
「……母さん」
「なによ」
「彼の杖、萎れているのですが」
「あんたが撫でれば、固くなるんじゃない?」
「真面目な質問に下ネタを返さない!」
因みに撫でてみたけど現状は変わらず、私の手に渡された儀礼杖はふにゃりと茹でたて状態になっていた。
「ど、どうしてこんなことにっ!彼の形見が!」
「あいつが使っていたぐらいなのだから、ただの棒ってわけじゃないんじゃない?定期的に魔力を注いであげないと、本来の触媒としての機能を発揮しないとか」
「どうやって注ぐのでっ」
「さあ。舐めれば?」
「各方面に私が持っている物への審議が問われる下ネタを返さない!」
杖です、儀礼杖!ふにゃふにゃの儀礼杖(ワンド)、因みにペロリとしたけど元には戻らなかった。
これでは振れないし、持っていても様にならない。でも、燃えるゴミには出したくないし、どうすれば!
引っ張ったり激励してみたり、悪戦苦闘していれば、鬱陶しいと顔に書いたような母が杖をひったくる。
鞭のように両手でばしんと、伸ばし、私の手首に巻きつけた。
ふにゃふにゃなら、形は自在に変えられる。あれよあれよの間に、儀礼杖はブレスレットとなった。
「魔法出す触媒なんて、何でもいいのよ」
「本来の目的と違う物に成り変わった杖が泣いているように見えるのですが……」
「は?物に心があるわけないでしょ。物は物よ。人間が使ってこそ存在価値がある物」
冷酷な女帝さま君臨。
でも、これなら所持していてもおかしくない。
杖に彫られた幾何学な模様も装飾品としてお洒落に一役買っている。後は。