ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
「もともとあいつの私物なんか少なかったし、その杖だって、持っていかれるのをーー」
言いながら、しまったという母の顔。口を滑らしたのはきちんと私の耳に入ってしまった。
「えっ、彼の服を持って行くなんてーーもしや、彼のことを好きな人が盗んでっ」
「好きな人の服を盗むなんて、そもそもあの男しかやらないわよ」
盗んだなんて人聞きの悪い。彼は干していた私の洗濯物を、取り込んで、自分の寝床に置いていただけなのに。
「じゃあ、誰が」
「あー、言うと、あんた王都に行きそうだから言わないでいたいんだけど。本当に覚えていないのね。あの日、タロウの奥さんに見つかったもんで、何もせずに私が家に帰った日」
それもそれで詳細を知りたいが、置いておこう。
「あいつの首抱えて気絶していたあんたと、泡吹いて死んでいる三つ目の男と、血の池製造機になった首なし胴体が横たわっている時はさすがに声を上げたわ。誰が掃除すると思ってんの!って」
そもそもあなたは掃除しないですよね!?との声は飲み込んでおく。
「どう始末するか迷っていたら、来たのよ。王都の騎士団ーー“明けの境界”連中が」
王都。大陸の東を収める統治者がいる都。土地から見れば、私たちの村もその管理下に置かれているが、王様がこんな辺境の地に来るわけもなく、地図上の枠線内に入っているだけ。
今では西の王様と協定を結び、戦争なんだのとした物騒な話はないが、昔、その戦争の名残としてある王都の護衛“明けの境界”騎士団が今でもモンスター討伐がため、国と王のために剣を振るっている。
西にも西で、“暮れの地平線”という鎧集団ーーじゃない騎士団がいるけど、掲げられていた旗のシンボルからこちら側の騎士団だったと母は言う。
「なんか、代わりに掃除してくれるそうだから任せたら、そのままあいつの胴体持って行ったわ。首に関してはあんたが離さなかったし、必要ないとかで置いていったけど。他、あいつの私物をいくつか持っていって、残りは私が燃やしたわ」
「さらりと言っていますが、どうして王都の人たちが彼の死体を持って行くのとか、なぜ彼が死んだ途端に現れたのとか、いっぱい気になるところはなかったので?」
「いやもう、血まみれのフローリングの張り替えもしてくれるとか言うし」
「彼の死体をフローリング代に変えたので!?」
「気になってもしょうがないじゃない。聞いたところで、教えてくれるわけないでしょうし。騎士団が動くなら、王様の命令でしょ?逆らって面倒なことはごめんよ。でも」