ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
「その大切な恋人に黙って、こんな危険な場所に来る君は鎖で繋いでおかなくちゃいけないのかな」
空からの鉄槌は雷。耳をつんざく雷撃に、目すらも開けられない雷光。閉じたまぶたを開けば、こんがりと美味しそうな牛ソテーに……あ、いや、横たわるイッカクがいた。
そうして。
「大丈夫?」
倒れた私に手を伸ばしてくれる、儀礼杖(ワンド)を持った黒ローブの彼は。
「ヒーロー!」
「ボロ泣きの第一声がそれなんだ……。まあ、確かに俺は君(ヒロイン)のヒーローにはなりたいけど」
ヒーローらしく、ピンチに登場してくれた彼に抱き付く。怖かった、怖かったよーと泣いていれば、鎖を腕に巻かれた。怖いのは彼も一緒だったと、ちょっぴり距離を置く。
「で?どうして、フィーナは、『朽ちた遺跡の森』にいるんだ?村の外、特にこういった自然が多い場所はモンスターが多くいるから危険だと話したはずだけど?しかもか、確か、『今日はクラビスさんにとっておきの物をプレゼントしたいので、私の部屋を覗いてはいけませんよ?』と言った君が、どうして、部屋の窓から外に抜け出して、こんな場所にいるんだろうね」
「あれだけ覗かないでと言ったのにっ」
「五時間は待った」
「ごめんなさいっ」
彼、クラビスさんのことだ。絶対、私の部屋の前で動かず待っていたに違いない。
森に行きたいと言えば、絶対反対されるから使ってみたのだけど、まさかこんなことになるなんて。
土下座しようにも、鎖を引かれて密着必須。置いた距離も無きものとされた。
「フィーナ、質問に答えていない」
「その……、母さんの病気をなおすにはイッカクの角が必要だって」
「サチさんの病気、俺が治したけど」
「え゛っ」
驚きすぎて、えに濁点がついてしまった。
「は?へ?え?な、治すって、イッカクの角持っていたのですか?」
「薬なくても、杖一振りで事足りる」
万能魔法使いと書いて、チートヒーローと読める彼だった。
「ありがとうございます!でも、もっと早くに言ってほしかった!」
でなければ、こんな怖い思いをしなかったのに!と付け加える前に、鎖がしまった。