ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
腰を上げたさい、ふわふわとした物が肩に乗ってきた。
「カネめノもの、オイテケー」
「ヒャッハー、ここはトオサネーゼー」
「おかしらー、ヤッチマイマショー」
段々と積み重なる綿毛状の物体。
三つ目だけど、その眼球は非常に眠たそうな様子。
「こーら。そんな言葉、覚えてはいけませんよ」
肩乗りの綿毛一匹を手のひらに乗せる。
開眼しきれていない目に、この吹けば飛びそうな物体は、ゲノゲさん。モンスターなのだけど、特に害はなく、身がないので食用にも向かない。
ただ、人の言葉を覚えて、何か甘いものを与えれば一時でも言うことを聞いてくれるので、生きた手紙として活躍してくれている。
「こんにちはー」
「カネメノー」
「こんにちはー」
「カネメ……コンニチハー」
「はい、こんにちはー」
頭を撫でながら言葉を教えれば、こうして覚えてくれる。
同じ要領で残りの二匹にも挨拶を教えた。
「オハヨー」
「コンニチハー」
「コンバンハー」
「よし。これで何時いかなる時に人に会っても、礼儀正しい挨拶が出来ますねっ」
グッド、と親指を立てる。
ご褒美に、母が持たせてくれたカボチャ煮をあげる。
甘ければ何でもいいゲノゲさんは、美味しそうにカボチャ煮を無事に処理ーーじゃない、完食してくれた。
「コンニチハー、コンニチハー!」
「うんうん。ありがとうって言いたいのですね」
相変わらず眠たそうな目だけど、嬉しがっているのはよく分かる。
「にしても、ずいぶん物騒な言葉を覚えましたね。どこから飛んで来たので?」
「オハヨー」
ゲノゲさんと会話は成立しないか。
「今時珍しい盗賊風な話し方でしたねー」
こんな辺境の地では、人がいなさすぎて、悪さする人間自体がいないというのに。
「おかしらー!女がいやしたぜー!」
「こらこら、また、変な言葉、を……」