ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました

「フィーさんはとりあえずここにっ。あれぐらいならーーって!」

私の安全確保を促して立ち去るつもりでも、サクスくんの後をちゃっかり追っているのだから意味のないこととなった。

色々と言いたげな面持ちだったが、それどころではない事態が外に広がっている。


「北に逃げろ!自警団の連中が駐在している!早く行け!」

夜、それぞれの時間を家で過ごしていた人々が、外に出、逃げ惑う。

それらを先導するかのように、サヌッテさんが声を上げていた。

「愚鈍な子供は女が担いで行け!見てくれだけ立派な男どもは臆病風に吹かれてさっさと共に逃げるがいい!間違っても、“あれ”に立ち向かおうとするな!食用ごときでは済まされないモンスターは、僕ひとりで十分だ!」

青いエプロンと三角巾を脱ぎ捨てながら、逃げる人々の波と逆方向に進むサヌッテさん。

先輩っと叫ぶサクスくんも彼の後に続く。


「あれは……」

遠目からでも分かる異形が、町の通りに三体。

全て同じ背格好。人のように二足歩行するも、背から生えた八本の節足動物の足がクモを連想させる。

赤の三つ目がギョロつきながら、手近な人間に近づき、その鋭利な足を槍代わり使う。

「そんな三流に目をつけるとは、所詮は虫だな!」

投げられた石により、クモ(モンスター)たちの標的が代わる。


「完全なる悪め!性懲りもなくこの町に来るとは、僕に滅される覚悟があるというわけか!」

「先輩っ!いいから、あなたも逃げてくださいっす!先輩ってば!」

「ええい、邪魔だ!貴様も目障りだ、去れ!ここは僕ひとりで十分だ!足手まといなど必要ない!他の奴ら同様、我先にと悲鳴あげて、逃げるが良い!」

「囮役を買うから、今のうちに逃げてとか、そんなこと言っている場合っすか!」


訳がなくても、かっこいい人さんにつかみかかるサクスくんは、逃げようとしない。


「オレがやーー」

「要らぬと言っている!手助け不要!」

「でもっ」

押し問答となる時、突然サヌッテさんがサクスくんを突き飛ばした。

突飛な行動後にあったのは、白い糸に絡まるサヌッテさんの姿。網にかかったかのように拘束され、地面に横たわった。

「ちぃっ!」

「先輩っ、今!」

「来るなっ!だから行けとーーっ、どうして女まで来ている!弱者は弱者らしく、さっさと行け!」

弱者だからこそ、助けたいと駆け出すこともあるんだ。身動きが取れない彼に近づき、白い糸を取ろうにも素手で触っては粘着くだけ。

「じっとして下さいっ」

火を出す。焼き切るつもりだが、下手をすれば彼の皮膚にダメージを与えてしまうため、火力を調整した。

「お前、魔法使い……い、いや、だが、そんなことをしている暇あるなら」

「している暇あるから、しているんですよ!あなたが、囮役を買うように」

だから止めはしない。
糸の耐久性が高いのか、火加減の調整が難しい。四苦八苦している内に、クモのモンスターは獲物を串刺しにしようとやってくる。

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