ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
「そんなの、嫌ですよ……!私にすべてを忘れさせても、あなたは……!分かるんですよ、手に取るようにっ、大好きなあなたのことなら!きっと、……きっとあなたは覚え続ける」
私を二度も泣かせ続けないために。
「そんなのイヤですよ。なにも知らずに、ただ笑っていきていくなんて!悲しいことはーーあなたが死んでしまうのは二度とごめんだけど、それでも忘れたくはない。全てを覚えているあなたの前で、笑っているような私はイヤです!幸せも、不幸も、どんな感情もあなたと共に分かち合いたい。私が笑えるのはあなたが笑ってくれるからで、泣けるのもあなたが……っ!」
彼からの返事はない。黙って私の言葉を聞き続ける。
彼と喧嘩するときは、いつもこうだ。
彼は私に怒ったりはしない。こうしていつも、私だけが感情的になる。感情の奔流を彼にぶつける。彼もまた同じようにしてくれればいいのに、いつも冷静で、最後には私を宥めてお開きが定番ともなってきたのに。
口を閉じる彼こそが、その実、感情を制限仕切れていないようだった。何かを口走ってしまう前に、私を抱いて、冷静さを取り戻す。
相思相愛なんだ、私たちは。
相手の気持ちが手に取るように分かる。
また、あの日々に戻ろう。
時が過ぎし今、それが無理であることは誰よりも彼が分かっている。
戻ってはいけないんだ。彼が死に、私が泣き続けるあの日々には。
「返しましょう」
今にも崩れそうな彼の体を支える。
サクスくんの体なのに、ずっしりとした重みが感じられた。
「『よくある話』、なんですよね?なら、サクスくんは、それを承知で体を貸してくれた。私を助けるために。サクスくんなら、一人で逃げ切れたのに、私を抱えたから。そんな優しい人を犠牲にもしたくない。こうして、嫌だ嫌だと言う私さえも無視して、あなたのしたいようにしたら、一番に苦しむのはあなたじゃないですか」
全てを一人で背負う罪。何もかもを忘れた私の隣で笑い続けていなければいけない罰。
「私を幸せにしたいなら、まずあなたが幸せになって下さいよ」
それが、私の幸せなのだから。
「……したいように、させてくれよ」
ようやっと聞けた言葉は、水分をやけに含んだ音色だった。
「いくら君の名前を呼ぼうとも届かず、こちらを振り向いてくれず、泣き続ける君を見続けるのは、もう」
それが、彼の『イヤだ』。
私と同じ、相手を思ってこその悲しみ。
相反する意見なのに、相思相愛だからこそなるこの食い違い。平行のままではいられない。けど、無理やり天秤を自分の意思のままに傾けられるであろう彼が、それをしないあたり、答えはもう出ていた。
出ていた答えが実行されないのは、納得しきれていないから。
諦めきれていないんだ。
「君と、このままでいたい」
私だってと口にしそうになり、唇を噛む。
「また、こうなりますから」
途方もない希望を求める言葉に思えて、そうじゃないと首を振る。