ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
五章
(一)
朗らかな晴天。
青い空に白い雲。鳥が飛び交うのどかな町にて。
「きゃあああ!司祭さまあぁ!」
「抱いて下さいましいいぃ!」
「耳から妊娠させてええぇ!」
ピンク色の熱気がひしめき合っていた。
教会前の通りで、サクスくんが『復活!司祭さま路上ミサ!』というビラをばらまいてから、30分もしない内にこの人だかり。
全てが若い町娘。壇上に上がり、一礼する司祭さまが「心配かけさせたね」と言うなり、一同腰砕けになっていた。
「凄まじい人気ですね……」
熱っぽくクラクラな女性たちを見て思う。そばに控えたサヌッテさんが、「司祭さまの前で倒れるとは、なんと不浄!この聖水にて清めてやろう!」と介抱しているが、むしろ要らない世話となってもいるようだった。
「良かったっす。これで司祭さまも……!」
あの死に体状態から、路上ミサを一日通してやる予定を立てるほどの復活を遂げた司祭さまにサクスくんは目を潤ませているけど。
「なぜでしょう。人を救ったのに、感動的な感覚が湧かないのですが」
不思議なものだと、遠巻きから司祭さまの歌声を聞きつつ、鳥やネコまでもが息を荒げて地に伏すのを眺めた。
「不思議なのはフィーさんっすけど。司祭さまの歌声を聞いて、どうにもならないんすか?」
「え、クラビスさんの方が美声ですよ」
「スッゴくいい笑顔で返答しないで下さいよ……」
司祭さまが聞いてなくて良かったと、サクスくんは言う。
一曲も終わらない内に、女性たちがメロメロのへとへとになったため、司祭さまが壇上から降りてきた。
「ふう、やはりいいものだね。こうして、人々を幸せに出来ることとは」
それはまた快楽と書いて、しあわせと読む表現なのだけど、爽やかな汗を流している司祭さまには言えないことだ。
「ありがとう、サクス。そうして、フィーナさん。私のために、モンスターに立ち向かってくれるとは」
「い、いえ、オレは、司祭さまが元気になれたなら、それで……!」
親から誉められ照れる子どものように、顔を赤らめるサクスくんだった。
私にもお誉めの言葉を頂けるが、司祭さまは私を見るなりに神妙な面持ちをしている。目線は斜め上、彼の定位置という私の右肩あたりで察する。