ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました

「司祭さまも、彼が見えるのですか?」

「見える……ああ、幽霊がいるのかい。私はサクスのように見えるわけではないが、そうだね。何か禍々しい悪魔ーーいいや、邪神ほどのおぞましい気配を感じてしまってね」

「聖職者からの邪神認定!?」

「フィーさんに話しかけるだけで、凄い殺気っすから……」

「さすがにこれは、私にも祓えないねぇ。王都に赴けば、君の邪神を祓える人もいるのだろうが」

「いえ、むしろその邪神を見て感じたいのですが、何か方法はありませんか?」

は?となる司祭さまに訳を話す。
一連を話せば、私では専門外だねえとの悲しいお答え。

「幽霊や精霊の類を見たり出来るのは限られたものしかいないから。サクスのそれも、先天性のもので……。それこそ、他の見える人に聞くのがいいんじゃないのかい?さっき言った王都の祓える人も、見えるからこそ術が行使出来るわけであるから」

「王都に旅立ちます!」

「決断はやいっすよ!?」

だって、幽霊となった彼を感じられることが出来るならやるしかないと言いたいが、サクスくんには危険と言われてしまう。

「盗賊に襲われたばっかりじゃないっすか。王都中心にそういった輩が多くなっているみたいですし、フィーさん一人じゃ危険っすよ。ね?司祭さまもそう思うっすよね?」

「サクスが同行してあげなさい」

「なんでそうなるんすか!?」

「女性の一人旅は止めたいところだが、愛がために進む女性を止めるなどあってはならない。聖職者として、愛に生きる者の手助けはしなければ」

その愛で死んでしまった人が邪神認定されたことはお口チャックにしておく。

「い、いや、それはその、ここから王都まで一週間以上はかかるんすよ?その間、フィーさんと二人っきりに……うわっ、へ、変なこと考えてないっすよ!?だから、首絞めはっ!い、行きませんからーーえ?『ついてこい』?」

意外な彼の言葉にサクスが目を丸くする。
ひとしきり話したあと、私に通訳。

「同行しなきゃなんなくなりました……。彼女に俺の言葉を伝える役として任命してやろう。断れば、司祭共々絞殺するそうっす……」

「クラビスさん、邪神まっしぐらじゃないですか……」

強制的にサクスくんが同行する羽目となった。何だか悪い気もするけど、彼が見えるまでの間、いてくれると助かる。

「サクスくん、お願い出来ますか。嫌なら、私からクラビスさんに言いますから」

「いえ、フィーさんには恩がありますし。一人で行かせるのは心残りになりそうっすから、付き合います」

改めて、よろしくと握手。
彼がサクスくんに手をかけるのは予想出来ていたが、その前にサヌッテさんが割り込んできた。

「ふんっ、これで我が教会には神に選ばれし、僕と司祭さまの二人となるか。目障りな孤児がいなくなり清々するが、おめおめ悪を逃がしたとあっては僕の名が廃る。いいか、役目を終えたならばすぐに帰ってこい!他の悪に染まらぬよう、害ある場所に近付くな!貴様が寄り道せぬよう、馬車を手配してやる。貴様より頭の出来がいい馬に乗り、何よりも頭の出来が優良な僕が揃えた物を持って旅立つが良かろう!ただし、出立は明日!僕が行う洗礼を受けてから出ろ!」

「ああ、それがいい。フィーナさんもまだゆっくりしていきなさい。サヌッテ共々、存分にもてなそう」

こうまで言ってくれる人たちの好意を無下(むげ)にするわけにもいかない。

頷き、これからのことに希望を持つ。


「王都に行ったら、早速、クラビスさんを見えるようにします」

「クラビスさんは、クラビスさんで、『愛の力』で生き返ってみせると別の目標を立てているみたいっすけどね」

「なら、勝負ですね。どっちが達成できるのが早いか」

負けないよ、と笑われた気がした。

見えなくても、彼のことは分かってしまう。相思相愛とは、そういったこと。

どんな難題にも挑め、乗り越えるまで進み続けることが出来るのも、愛する人がいるからだ。

「絶対、彼を見えるようになります!」

そうしてまた、新しい日々を過ごすんだ。
彼と二人でーー





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