ヒーロー(ヤンデレ)が死亡しました
二章
(一)
しばらくは、動きたくなかった。
心臓がなくならなくても、心をなくせば人は生きながらにして死ねる。
死体と見紛う人はベッドの上。昼夜の逆転どころか、明け方と夕方の区別すらつかず、また目を閉じる。
今が何時だろうと何日だろうと、もはやどうでもいい。ひたすらに眠りたい。眠れば彼に会える気がするから。
腕の中の彼が苦しいと言っている気がしたけど、無視をする。彼の何かに触れていなければ落ち着かないのだから。そうして、触れていればいい夢を見られると思った矢先。
「か、かかかっ、カボチャになってる!?」
彼の頭が緑色の物に変貌していた。というか、カボチャになっていた。
え、なんでっ。起き上がり、辺りを見回しても彼の首は落ちていない。つまりは、このカボチャーー新鮮なカボチャは彼であり。
「私がカボチャの煮物が好きだからって、何もなることはないじゃないですかああぁ!しかも甘く煮るには最適な黒皮栗カボチャああぁ!」
「うっさい!」
俺を食べて願望のカボチャに涙していれば、母が部屋に入ってきた。
入ってくるなりに、アトランティックカボチャを投げられた。当たりはしなかったけど、窓が割れてしまった。
「母さんんん!彼がカボチャに!」
「だから、うるさい!まったく、死んだ男の首を持っているなんて気が狂ったと思っていたけど、カボチャを彼と思うほど頭おかしくなったの!」
こんなもの、と黒皮栗カボチャまでも外に投げられた。追いかけようとすれば、頭に拳骨をされてしまった。
「もう二週間は経つんだよ!いつまでも、そんな状態で……!見ているこっちの身にもなってほしいよ!聞いてんの、フィー!」
意識が白に塗られるような拳骨しといて、酷い母親だと思う。けれども、鼻腔をかすめるカボチャ煮の匂いで、母親はやはり優しいものだと知るし、いったい家には何個のカボチャがあるんだろうと思った。
「か、彼の首、は?」
「埋めた。ーーって、掘り出しに行かない!」
首根っこを掴まれ、ベッドにリバースされた。
「い、行かせて下さい……っ。彼がいないと私っ!」
「彼がいてもあんたは元から頭がおかしいんだから、いらないでしょ?」
「いいのですかっ。もっとおかしくなれる自信がありますがっ?」
「腐っていく頭相手に新婚ごっこし始めるよか、まし」
ばっさりと切り捨てられた。抵抗すれば、また拳骨とは青筋立った拳より察せられる。無理して突破してもいいけど、下手すれば彼の記憶が抹消される一撃を見舞うかもしらない。
「ふっ、うぅ……」
「泣かない。泣くなら何か食べてからにしなさい。干からびるわよ」
水を差し出されたが飲む気がしない。いらないいらないと、続ける。
「彼しか、いらないのに」
「その彼が飲めって言ってんのよ。あれだけあんたの健康だの体調管理に気を使って、三食おやつ付きかつ一日に必要な栄養素を考えたメニューを出していた彼が今のあんたを見たら。問答無用で飲ませ食べさせするだろうね」
ここ数週間で激痩せしてしまった体は、当たり前とも言えよう。水を飲めればいい方だった。声を出しただけでも息切れしてしまうほど、弱り切っている軟弱さ。
確かに彼が見たら、手足縛ってでも口をこじ開け、豪華絢爛の私大好きメニューを強制あーんで食べさせてくれるだろう。
「ごめんなさい……」
水を受け取る。むせながら、飲み込んだ。