2人きりのティータイムは、苦くて甘い。
意外なひと


濡れた雑巾で一心に机や窓を磨く。気になったところの整理整頓も忘れずに。そして、新しい花を花瓶に生ける。


誰も気づかないかもしれないけど、殺風景なオフィスの中で少しでも和む風景になればいいなと思い、入社以来欠かさずに毎朝している習慣。


仕事ではろくに役に立てた試しがないから、せめてこれだけでも。

通常業務の始業である午前8時より1時間は早く出勤して始める。熱心に窓を磨いていると、ガラスにとある人の姿が映って体が跳ね、思わず振り返った。


「おはよう、有坂(ありさか)さん。毎朝ご苦労さま」

「お、おはよう……ございます」

ダークネイビーのスマートなラインのスーツを着た茶堂部長は、相変わらず愛想とは縁がない無表情なまま挨拶をしてくれる。冷たい顔にビクビクとしていると、ビジネスバッグから茶色い箱を取り出した。


「ちょっと待ってなさい」


そう言って彼は何故か一度出ていく。そして、しばらくしてから2つのマグカップを手に戻ってきた。


「す、すみません! 本当なら私がしなきゃいけませんのに」

「いいよ、とにかく飲んでみて」


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