あなたと恋の始め方②【シリーズ全完結】
 好きだと思う気持ちが溢れるのを止められない。帰らないといけないと思うのに、帰りたくない。そんな我が儘なことを思う私がいる。


「その顔、反則。そんな顔するともう一度、俺の部屋に連れて行くよ。着替え取ってくる?」



 そんなドキドキするようなお誘いに私は首を振る。でも、本当は頷きたかった。どう考えても月曜日は仕事が立て込むのが分かっている。だから、好きという気持ちだけで動くことは出来ない。それに小林さんも仕事は忙しいはず。考えなければいいのに、考えてしまうのが私だった。


 何もかも忘れて飛び込めたらいいのにと思うのに…。そんなことは出来ない。



「今日は帰ります。明日仕事だし」


「うん。分かっているけど、一緒に居たいと思う俺ってどうかしてるよな。自分でも驚く。マジで」


 そう言ってゆっくりと私の手を放した。


 包まれていた温もりがなくなると、次第に自分の手から温もりが消えていくのを感じずにはいられなかった。温もりを少しでも保ちたくて自分の手を握ると…。そのギュッと握った手を小林さんはもう一度優しく包んでくれた。




 恋は生活の色を変える。

 どこにでもある日常が眩しく見え、彼のことを思うたびに心がふわっとした優しさに包まれる。


 小林さんとの大事な時間を過ごしてからの私はそうだった。


「また会えるのを楽しみにしてる」


 そんな小林さんの言葉に私が微笑むと小林さんはゆっくりと私の身体を抱き寄せてくれたのだった。そして、落とされる唇の優しさに目を閉じた。
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